前穂〜奥穂〜天狗のコル |
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所在地 | 長野県穂高町 | |
上高地登山口 | アプローチ | 上高地河童橋 |
登山口標高 | 1505m | |
標 高 | 前穂高岳3090m 奥穂高岳3190m | |
標高差 | 単純1685m 累積(+)1950m 累積(−)1950m | |
沿面距離 | 15Km | |
登山日 | 2004年7月25日 | |
天 候 | 晴、雨、雷 | |
同行者 | 単独 | |
参考コースタイム 山と高原地図(旺文社) | 河童橋(2時間30分)岳沢ヒュッテ(3時間)紀美子平(30分)前穂高岳(20分)紀美子平(1時間40分)奥穂高岳(不明)天狗のコル(不明)岳沢ヒュッテ(2時間)河童橋 | |
コースタイム |
河童橋(1時間35分)岳沢ヒュッテ<休憩8分>(1時間55分)紀美子平<休憩7分>(25分)前穂高岳<休憩5分>(15分)紀美子平<休憩20分>(1時間18分)奥穂高岳<休憩9分>(1時間21分)天狗のコル<雷避難40分>(32分)岳沢ヒュッテ<雷避難30分>(1時間20分)河童橋 合計10時間40分<休憩50分、雷避難1時間10分含む> |
上高地バスターミナル |
バスターミナル建物内 |
今週は穂高連峰のうち、手近な前穂高岳を選んだ。朝3時半に家を出て、通り慣れた41号線を南下し、471号線経由で平湯温泉に入る。 あかんだな駐車場に車を停め、シャトルバスに乗ろうとすると乗車券を要求される。直通で上高地に入っているようだ。 今回は、上高地に行った事がないという山の神を同伴する。だが上高地からは別行動で彼女は焼岳へ向かう。 |
梓川と前穂高岳 |
河童橋 |
6時過ぎに上高地のバスターミナルに到着する。梓川沿いに歩いて河童橋へと向かう。ガスがかかって山並みが見えないのが残念だ。 6時30分、河童橋を渡ったところで右と左に別れる。待ち合わせの場所をバスターミナルにしたが、時間は決めなかった。決められなかったと言った方がいいだろう。お互いに今日の行程が計算できなかったのだ。 午後から天候が悪いようだし、奥穂から戻るのか、天狗のコルに向かうのかも決めていない。最悪、前穂で引き返す事も考えられる。 上高地は携帯電話が使えるのでそれほど心配もしていなかった。 |
朝日に輝く岳沢への登山道 |
別れている梓川のうちの一番北側を流れている |
梓川の分流にあたるのか一番北側を流れている部分に沿って北上する。やがて岳沢に向かって川を離れ、樹林帯に入っていく。 初めは標高差も少なく木道を交えた遊歩道のような道が続く。小さな沢をいくつか越えていくと徐々に岩の多い道となるが歩きにくくはない。 下山者が1人休んでるところが風穴のある所だった。「涼しいよ」と言って場所を空けてくれた。確かに涼しい。地球の匂いがした。 |
冷たい風が吹き出している風穴 |
よく整備された歩きやすい登山道 |
時々ガスが引いて山並みが見える。全体が見えないので山名が同定できないが、傾いて見える大きな山が奥穂高岳だろう。その左に見える山はよく分からない やがて沢の向こうに赤い屋根の小屋が見えてきた。岳沢ヒュッテだ。枯れ沢を登り、8時5分、岳沢ヒュッテに到着する。 ここで水分と栄養を補給をする。ポカリスエットに代えて持ってきた「AKANDA」だったが、マズイ... 小屋の人に奥穂から天狗のコルを経由して降りてくるコースを訪ねると、もう雪がないから大丈夫だと言う。 「危なくはないんですね」の質問に「ここには安全な道はない」の答え。 さらに逆に廻るコースの方がお薦めだ言う。その理由は最後の馬の背は降りるよりも登る方が安全だからだとの事。 |
時々ガスが引いて山並みが見える |
岳沢ヒュッテのベランダ |
8時13分、時間的にも体力的にも未知の山なので取りあえず最低、前穂は登りたいと思い、予定通り重太郎新道を目指す。 小屋を出て直ぐの所がテント場だった。いくつかのテントが張ったままだった。前穂や奥穂を目指しているのだろう。実際、この後、何組かの空身のグループとすれ違った。 お花畑のジグザグの道を登り切った後、長いハシゴ場となる。そこからが急登だった。ストックで座標を作ってみると斜度は60度ほどありそうだ。 歩くという感覚ではなく登るという感覚に近い。岩が多くて滑らないので3点確保で登れば危険はない。ストックが邪魔だった。 |
岳沢ヒュッテのベランダから売店を見る |
岳沢ヒュッテから紀美子平への重太郎新道 |
「カモシカの立場」で一瞬青空が見え、ひときわ高く奥穂が見える。その左に見えるのが何かよく分からない。天狗の頭か間ノ岳?、西穂? 前穂の方面も視界が開け、急な斜面に人が列を作っているのが見える。まったく見えないのとでは記憶の残り方が違う。よかった。 |
右に見えるのは奥穂高岳 |
天狗の頭と間の岳? |
10時8分、岩陰からひょいと上がったところが紀美子平だった。思ったより狭い所だった。 その名前から、平らで広い草原を想像していたのだ。実際は猫の額のような所に石垣を組んで一応の休憩所にしてある。快適に休めるのは30名ほどだろうか? ここで栄養補給をする。7分の休憩後、リュックをデポして10時15分、前穂の頂上を目指す。 |
この急な尾根筋が紀美子平への重太郎新道 |
紀美子平 デポされているリュック達 |
頂上近くになって雨が降り出す。体は多少濡れてもいいが、デポしてきたリュックが心配だ。幸い小降りになってきたので急いで頂上に向かう。 10時40分、頂上に立った途端に大粒の雨となった。頂上のすぐ下に岩陰をみつけ潜り込む。 小降りになるのを待ち、10時45分、頂上を後にする。11時ちょうど、紀美子平に降りてみると、やはりリュックは濡れていた。雨はさらに激しくなり雨具を着込む。 |
リュックをデポして前穂高岳へ |
紀美子平への降り |
景色はガスに隠れて何も見えない。引き返すか奥穂まで行くか、時間はすでに11時だ。迷ったときは取りあえず乾杯(?) 缶ビールを飲んでいると、雨が上がり景色が見え出す。景色が見え出すと迷いは消えた。 11時20分、奥穂を目指し、紀美子平を出発。 |
中央奥に前穂高岳が見えた |
雨が上がり山肌が見え出すので奥穂を目指す |
多少のアップダウンはあるが水平道に近く、快適に歩を進める。登山道は広くはないので下山者とのすれ近いに時間を取られる。 吊尾根の登山道の多くは岳沢側を走っているが、ちょうど尾根の上にさしかかった時にガスが引き、左側に岳沢と岳沢ヒュッテが見えた。右側には涸沢と涸沢ヒュッテ、涸沢小屋も見える。振り返ると前穂が堂々とそびえている。これが今日の最高の贈り物だった。 |
一瞬、吊り尾根から岳沢が見えた |
一瞬、吊り尾根から涸沢が見えた |
この角度から見る前穂は剱岳によく似ていると思った。蟹のはさみに2600mピークに、手前は一服剱か... 右側はガスに隠れて見えないが、もしも八峰のようになっていたらと思うとワクワクする。ここから見ると重太郎新道がいかに急登かが分かる。 |
一瞬、吊り尾根から前穂高岳が姿を現す |
この前穂の右の稜線が岳沢からの重太郎新道 |
奥穂に近づくにつれ南側の稜線上にジャンダルムが浮かび上がってくる。その名前「ジャンダルム=衛兵=前衛峰(仏語)」から想像すると、あの頭部のような下に鎧をまとった巨体と剣を握った腕があるような気がしてくる。 12時38分、奥穂の頂上に立つ。昨年の10月に白出から登って以来の2回目になる。昨年は樹氷が張り付き、視界もきかず、真冬のような頂上だった。 |
吊り尾根から見たジャンダルム 左にロバの耳 右に馬の背 中央に人影 |
奥穂高岳頂上 |
往路を戻るつもりでいたのだが、ジャンダルムが気に入ってしまい、天狗のコルから岳沢を降りる事にする。乗鞍岳方面から聞こえていた雷の音も消えている。 いきなりの馬の背の降りにストックがじゃまだった。ストックの世界じゃなく、三点確保の世界らしい。降りきってからストックをリュックに縛り付ける。 |
馬の背から見たジャンダルムとロバの耳 |
馬の背(4人が登山中)を振り返る 遠くに奥穂 |
ガスがかかったり晴れたりで、ピークが現れたり消えたりしている。全体が見えないのが残念だ。ジャンダルムも登ったのか巻いたのか分からなかった。 ジャンダルムを越えたあたりから再び雷が鳴りだした。今はまだ遠いが、いつこちらにやってくるか分からない。 こんな稜線で雷とは会いたくない。先を急ぎたいが、走れるような場所でもない。滑落してしまったら雷どころではない。 |
このようなピークをいくつか越えて行く |
二人の登山者が登り切るのを待つ(登り優先) |
何組かのパーティーと出会うが、急登、急降なのですれ違いに時間がかかる。落石にも気を遣う。皆、奥穂に向かうパーティーばかりで逆方向へは誰もいないようだ。 ガスがかかっていて方角が分からず、頼りは石に書かれたペンキの印だけだ。そのペンキの印を辿りながらも道を間違えてしまった。 人に踏まれている石と踏まれていない石とでは雰囲気が違うので変だと気づく。ペンキ印に戻っても今度は右か左かが分からなくなり磁石の世話になる。 |
鎖もないこういう登りを見ると剱岳の別山尾根も 早月尾根も普通の登山道としか思えない |
この二人の登山者には私が登り切るのを待って もらった その後そこを降りていく二人 |
雷が近づいてくるが天狗のコルがどの辺なのか見当もつかず、不安だけが大きくなる。せめて視界だけでもきいていればと願うが空は暗くなる一方だ。 最後に会った人の話では「天狗までは2時間はかかる。何処まで行くつもりなんだ?」と聞いていた。天狗まで行くつもりはないが、その言葉が大きく響いてくる。 |
左下は切れ落ちているが当然、鎖などない |
ジャンダルムを振り返る 頂上に二人の人影 |
ガレ場を降りかけた時に、ガスの中から大きなピークが浮かんできた。あれを越えなければいけないのかと思ったら目眩がしそうだった。 幸い、その大きなピークが天狗岳だったようで、降りきったところが天狗のコルだった。14時8分だった。両側が切り立った狭いコルには避難小屋の跡があった。 雨も降り出して、雷鳴が近い。急いで天狗沢を駆け下りる。リュックに縛ったストックの先端が上を向いていて避雷針を担いで歩いているような気がした。急いでストックをはずす。 |
ぼんやりと天狗岳と間ノ岳? 雷が近づく |
天狗のコルに出てホッとする |
近くで雷が鳴り出す。草と岩以外何もない沢で岩と岩との隙間を見つけ体を押し込んだ。ストックは帰りに拾えるように下に向かって放り投げる。 雨は大粒のヒョウに変わり、岩と岩のくぼみに白く積もっていく。「バリ、バリ、バリ〜」と言うのは雷が横に走っているのだろうか? 地表に落ちた雷はすさまじく、ダイナマイトを1000本ぐらい、同時に爆発させたような音がする(やった事はないが)。半径50m以内に落ちたら絶対助からないと思った。 身を押し込んだ岩と岩の間は雨水の通り道だったようで、背中にシャワーのように水が落ちてくる。40分間この冷たい水に打たれていたが、この時は雷より水のほうがマシだと思った。 14時55分、雷鳴が遠ざかっていったので慌てて天狗沢を駆け下りる。腰のベルトにつけているデジカメのケースに雨水が入りデジカメは水没した状態だった。 15時20分、岳沢ヒュッテに駆け込むと同時に又雷が鳴り出す。 |
天狗のコルにあった避難小屋の跡 雨が降り出し、その後大きなヒョウに変わる |
天狗沢 ここで雷の避難中にデジカメを水没させ 以後写真は撮れなかった |
山の神に携帯電話をかけるが出ない。こちらも不安だ。30分後の15時50分、雷はまだ鳴っていたが樹林帯だから直撃はないだろうと岳沢ヒュッテを後にする。40分間冷たい水に浸かってしゃがんでいたのと、その後に無理に天狗沢を駆け下りたのとで脚が思うように動かなかった。 17時10分、河童橋を渡り、17時15分、バスターミナルで山の神と合流してホッとする。 15時30分発の平湯温泉行きのバスに乗り、平湯温泉最終のシャトルバスに乗る。あかんだな駐車場に停めてあった車に乗り込みヒーターで体を温めた。 今回も違う意味でハードな山行きだった。反省点として山でパートナーと別行動をとるのはよくない。不安材料を作り、その後の行動を危うくする。 |
後日談その1. 3冊持っている穂高のガイド本のうちの2冊に「穂高の稜線は夏の午後に雷雲が発生しやすいので注意するように」と書かれていた。もっと早く読めばよかった。 だが、どう注意すればいいのかは書かれていなかった。 その2. この日(25日)に会社のロープウエイとケーブルカーが雷にやられ運休する。特にロープウエイは復旧するまで1日半を要した。創業以来のことだった。 その3. 液晶の3分の2まで水が進入していたデジカメだったが乾燥させたら復活した(^_^) その4. この7月25日という日はあちこちで雷が鳴り、死者や負傷者を出した。「岳人」の10月号に被害にあった人たちの手記が載っていたが、読んでいくうちに、あの恐怖の時間がまざまざと思い出された。 あれ以来雷の音がするだけで、すぐに「下山」を考えるようななった(^_^;) |