御山谷(敗退)



立山駅〜美女平のケーブルカー(2004年5月16日撮影)

 雄山谷を滑ろうと思い、豊本さん、高木君を誘う。雪が少なく、下の方は雪が切れているかもしれないが、取りあえず行ってみようと言う事になった。
 3日前に針ノ木に登った中林君から雄山谷の写真が届いた。
 ゆっ.雪が...すっ.少ない...
 おまけに天気予報は最悪の方向に向かっている。降水確率100%で風もある。とにかく立山駅まで行ってみようと5時半、家を出る。


左側のくの字に曲がった谷が雄山谷で中央から右の広い沢がタンボ沢(針木岳より中林撮影)
中央右の大きな山が雄山で中央奧に見えるのが浄土山、左下に黒部湖が見える

 最近は雨風に叩かれる事も多く、多少の雨や風は気にならなくなっている。立山駅で地図と写真を見ながらコース取りや時間配分を考える。
 たいした不安もなく、中止なども考えなかった。心配なのは2人が来てくれるかどうかだけだった。
 7時少し前、雪の大谷散策のヘルプ(応援)に行く会社の仲間達と話をしているところへ豊本さんがやって来た。リュックに山スキーをくくりつけ、やる気満々のようだ。
 やや送れて高木君もやって来る。スキーは小賀坂のGFだ!? 私も30年前に愛用していたスキーで、思わず倒れそうになった(^_^;)
 まあ、いい。皆がそろったところで7時のケーブルに乗る。後日談だが2人とも本当に行くかどうか半信半疑だったそうだ。


美女杉の前の地蔵さん
 

雄山頂上の社務所
 
 美女平でバスに乗り換え、室堂に向かう。バスの窓から見た称名滝が雪解け水と雨で大増水している。3段目と4段目が一つになって落ちている。こんなに増水しているのを見るのは久しぶりだ。思わず雄山谷が心配になる。
 降りる時に運転手が「ハンドルを取られるくらい風が強いので注意してください」と言ってくれた。確かにバスが風で揺れていた。
 室堂ターミナル1階のコンコースで身支度をする。スキーヤーやボーダーが続々と降りてくる。山小屋泊まりの人達で、今日の滑降は諦めて、帰るらしい。
 屋上から外に出て室堂平を一ノ越(東方向)へと向かう。風は強いが追い風で辛くはない。吹き付ける雨も顔には当たらない。だが何処から吹き込むのか背中や腰がぬれてくる。

 昨年は浄土沢の真ん中を走っていた雪道が今年は浄土山の裾を巻くように走っている。どうも4月10日につけた自分のトレースがそのまま生きているように思えてならない。その考えに思わずにんまりしてしまう。来年は何処にトレースを残そうか?
 一ノ越まで登り、取りあえず一ノ越山荘で一息つく。山荘の若者に雄山谷の様子を尋ねると、下の方で雪渓が切れていると言う。そこからは谷の右岸を下り、途中で左岸へ徒渉するそうだ。この増水時では徒渉は無理だろう。行くだけ行ってみてダメなら登り返そうか? だが、登り返しの標高差は1200m程もある。
 と、悩んでいるときに、山荘の女将さんが出てきて「東も(東一ノ越)雄山谷もだめだよ!」と一喝。昨日、東一ノ越で滑落した怪我人がまだ山荘内で寝ているそうだ。
 雄山谷は諦めて、雄山神社参拝ツアーに切り替える(^_^;)


雄山神社 1ヶ月でかなり雪は溶けたようだ
 

弥陀ヶ原駅舎内で衣類を乾かす
 
 風は強いが雨具の袖がばたつくほどの強さではない。スキーを山荘の表にデポして頂上へ向かう。稜線上に雪は残っていなかった。
 いつもはデジカメの写真に刻まれているタイムスタンプから出発時間や到着時間など細かい時間を逆算しているのだが、今回は雨風で写真が撮れず、途中時間がさっぱり分からなくなってしまった。
 多分、頂上に着いたのは10時半頃だったと思う。社務所の屋根の下に豊本さんが持って来たスコップで小さな宴会場を作った。少し風は吹き込むが雨風をしのいでいつもの乾杯。
 食事後、雄山神社の参拝をすませ(順序が逆だろうって?)11時半頃頂上を後にする。豊本さんは兼用靴で、岩場を歩きにくそうだった。
 一ノ越からスキーを履いて室堂に向かう。プラブーツにファンスキーはベストマッチだ。もともと前後の体重移動に弱い登山靴だから深雪でもないかぎり、短いファンスキーの欠点が登山靴の欠点と打ち消し会い、軽さの長所だけが残る。

 室堂平に出ると斜度がなくなりターミナルビルの方向が分からなくなる。3人ともバラバラになり、土地勘のない豊本さんが心配だったが無事たどり着いていた。
 雄山谷を滑れなかった欲求不満から、弥陀ヶ原ホテルまで滑る事にする。天狗平までは滑ると言うよりは歩くという感じで楽しくはない。
 ガスで天狗平山荘も見えないまま降ったので現在位置が正確に分からない。美松へ直接降りるつもりがハイマツを避けているうちに碁石谷へ降りてしまった。慌てて軌道修正する。
 天狗平の上で高木とはぐれてしまっていたが弥陀ヶ原ホテルの300トン水槽のある場所でいっしょになった。そこからは3人で高原道路を弥陀ヶ原駅へと歩いた。


岩峅寺と上滝を結ぶ立山橋
 

雨と雪解け水で増水した常願寺川
 
 弥陀ヶ原駅で荷物を整理し、濡れたものを乾かす。駅の人(会社の仲間)にコーヒーを入れてもらい、おやきを頂き、人心地をつける。
立山に来ると色々な人に会えるのが楽しい。バスから降りてきたのは高橋敬一さんで、今日は弥陀ヶ原ホテル泊まりとの事。最近の高橋さんは月刊誌「岳人」に花の写真とコラムを連載中である。
 帰りのバスでは佐藤武彦さんと隣の席になり色々お話を伺う事が出来た。6月に出版するという花の本の話や称名峡谷上廊下の遡行の話など、来年の楽しみが又、ひとつ増えた。

 仕事の打ち合わせがあるという高木君を美女平に残し、ケーブルで立山駅まで7分で降る。千寿ヶ原の駐車場で定番のコカ・コーラ乾杯をし、豊本さんと別れた。
 帰り道、増水した常願寺川の迫力に思わずシャッターを押してしまう。来年の雄山谷滑降を心に思い描きながら、家へと車を走らせた。