剱 岳



剱岳早月尾根にて(2004年7月19日撮影)

所在地上市町、立山町、宇奈月町
  馬場島 アプローチ富山市より車で1時間10分
登山口標高760m
標   高2998m
標高差単純2238m 累積(+)2268m 累積(−)2268m
沿面距離片道7150m 往復14.3Km
登山日2004年7月19日
天 候
同行者単独
参考コースタイム
 山と高原地図(旺文社)
馬場島(4時間30分)早月小屋(3時間30分)剱岳(2時間30分)早月小屋(3時間)馬場島  合計13時間30分
参考コースタイム
とやま山歩き(シーエーピー)
馬場島(5時間)早月小屋(3時間)剱岳(5時間)馬場島  合計13時間
参考コースタイム
立山・剱岳を歩く(山と渓谷社)
馬場島(5時間30分)早月小屋(3時間)剱岳(5時間20分)馬場島  合計13時間50分
コースタイム馬場島(3時間30分)早月小屋<休憩20分>(2時間37分)剱岳<休憩10分>(1時間41分)早月小屋<休憩20分>(2時間44分)馬場島  合計11時間22分(休憩50分を含む)


 海の日を含んだ3連休のうちの天気のいい日に上高地から前穂に登ろうと思っていた。ところがそんな時期に上高地に行ったら観光客がいっぱいで大変な目にあうぞと驚かされた。
 行きも帰りも乗物が渋滞して、予定通りには動けないというのだ。それもそうだと納得して近くの山に予定を変更した。
 今年の予定に入れている山の一つである剱岳の早月尾根を選ぶ。近くの山が剱岳という環境も全国の登山ファンにとっては羨ましい話だろう。


馬場島駐車場に工事中の建物が...
 

馬場島登山口 6時32分
 
 17日の土曜日は天候がよくないので取りやめ。18日の日曜日は土曜日よりはよかったが天気予報では月曜日の方が良さそうなので取りやめた。
 ところが19日の月曜日はもっと悪くなってしまった。もう天候を待っている予備日もなく、雨の中を馬場島に向かう
 馬場島に5時半に到着するが雨脚が強く、ガスがかかっていて空も暗い。気持ちまで暗くなる。うとうとしながら車の中で様子を見る。
 以前から駐車場にあった建物は取り壊され、新しい建物が建設中だった。完成が楽しみだ。


200mごとにある標識だが不正確なようだ
 

2100mあたりにある池にはまだ雪があった
 
 6時15分頃から雨があがり視界が開けて明るくなってきた。急いで身支度をする。
 横で待機していた石川ナンバーと富山ナンバーのグループに声をかけてみる。「今日1日、スコールのように降ったりやんだりでしょう」との答えが帰ってくる。出発する気はないようだ。
 トレーニング登山に切り替えて行けるところまで行って帰る事にする。6時32分、登山口(760m)に取り付く。頂上を往復するには時間的にもやや遅い。
 最初の急登はゆっくり登り、約30分で1段目の松尾平にでる。そこからなだらかに登って2段目の松尾平に出る。
 すり鉢状の2段目は積雪期にガスでもかかるとやっかいな場所だろう。小さな沢を登り切ると標高1000mの3段目の松尾平に出る。ここが一番広く西北西から東南東に向かって500m程の長さがある。
 最後は細い吊り尾根状となっていてそこから急登が始まる。


ミヤマバイケイソウ
 

クルマユリ
 
 早月尾根には200m置きに標識があり、行程の目安となっているが、その設置場所が必ずしも正確ではないようだ。
 今回は高度計で標識間の高度差を測ってみようと思った。まず1000mの松尾平で高度計を1000mにセットする。あとは200m置きの標識の場所で高度計をチェックするだけだ。
 実際には標識とその時の高度計を同時にデジカメにおさめておいて帰ってからチェックする事にした。気圧の変化も登りと降りの2回の測定で誤差を少なくする事が出来るはずだ。
 標識を見過ごしたり、高度計のリセットを忘れたりで正確な計測が出来なかったので、結果発表は出来なくなった。次回のお楽しみと言う事でご勘弁願いたい。


キヌガサソウ
 

イワベンケイ
 
 1200mを超えたあたりから雨が降り出し、雨具を着る。先週、鹿島槍で雨具のファスナーを壊したのを忘れていた。リュックで前を押さえるように着込む。
 下山してくる登山者とすれ違うようになる。2人組、3人組、5人組等々、あわせると20名ほどが降りていった。上の方の天候はさらによくないようだ。
 風邪で鼻がつまり、口でしか息が出来ないのも辛い。1600m当たりからバテだし、1800mではヨレヨレになる。

 トレーニング登山だと言って登り始めても、歩き出してしまえば頂上を目指してしまうことは分かっていた。そういう性格の悪さは本人が一番よく知っている。
 だがそれ以上に今日は辛すぎた。2000mあたりでは目標は早月小屋に変わっていた。
 2100mの池を過ぎ、ロープを張ったざらざらの岩場を過ぎ、小さなピークを降ったところが小屋のはずだ。10時2分、いきなりガスの中から早月小屋が現れる。


2200mにある早月小屋
 

2500mあたりに残っていた雪渓
 
 ここで帰るつもりなので持ってきた缶ビールを開ける。乾杯という気分ではなく完敗という気分だった。
 田制さんが出てこられて「寒いから中に入られ」と言われたが、雨もやんでいたし、靴を脱ぐのも面倒で表のテーブルで休む。
 しばらくすると、休憩したせいか、缶ビールのせいか、元気が出てくる。そうなると性格の悪さが出てきて、頂上への執着心がわき上がってくる。
 20分後の10時22分、缶ビールを1本買って「行けるところまで行ってきます」と小屋を後にした。
 頂上まで、標高差で残り800m。元気が出たと思ったもののやはり辛い。だまし、だまし、一歩ずつ登る。雨と風の中、ガスで風景も見えないところをなにが楽しくて登るのか?
 修行僧か修験者の世界である。民主党の菅さんも、四国の八十八個所など廻らなくていいから、ここに来いよ。と、おもわず思ってしまった。


早月尾根にあるクサリは全部で9本だった
 

これを見るとホッとする分岐点の標識
 
 2400m付近で14名のグループとすれ違う。この後、早月小屋で昼食をとって下山するそうだ。皆、空身で楽そうだ。
 2600mピークの巻き道にはまだ雪渓が残っていて、久しぶりに雪の上を歩く。ここからは急登の岩場だ。ストックをデポして両手を使った3点確保の要領で登る。
2700m付近で男性の下山者とすれ違う。もう上には誰もいないと言う。風も強くなってきていて、にわかに不安になる。

 2800mの石版の標識を撮影後、道を誤り、支尾根を降り始めてしまった。道がなくなったのに気づき慌てて戻った。
 道は反対側についていた。磁石で方向を確かめると南に向かっている。頂上は西の方角だと思いながらもそれを辿る。結果的にはそれが正しい道だった。
 せまいコル(キレット?)では風がうなり声をあげていて、益々寂しくなる。引き返そうかと思ったが、性格の悪さは健在で、身を低くして狭いコルを越える。
 その後、10本近いクサリ場を越え、ようやく剱沢との分岐点の標識が見えてきた。どちらから登ってもこの標識が見えるとホッとする。
 この標識を「剱岳のホッとする標識」とでも名付けておこう。


頂上の祠 雨に交じって雹か霰が降っていた
 

早月小屋に戻った頃から雨があがり始める
 
 12時59分、頂上に立つ。雨に混ざってアラレかヒョウのようなものが降っている。慌ててビールで今度は本当の乾杯! 直ぐに下山の用意をして、13時9分、頂上を後にした。10分の滞在だった
 疲れているので慎重に岩場を降る。濡れた手袋にクサリが冷たい。雨の日の手袋には苦労する。皆何を使っているのだろう?
 14時50分、早月小屋に到着する。雨があがり明るくなってきた。頂上から戻った事を田制さんに報告する。
 田制さんの奥さん(多分)はチャーミングな方で、いっぺんにファンになってしまった。ピンク系の口紅がよく似合っている。
 もう慌てる必要もなく、ゆっくり20分の休憩を取り、15時10分、早月小屋を後にした。


ブナクラ谷取水口と小ブナクラ谷、大ブナクラ谷
 

登山口にある観世音菩薩像(ほぼ等身大)
 
 20分の休憩は効果があり、しばらくは快調に高度を下げる。早月小屋で雨具を脱いだのも気分的に楽だったようだ。
 降り始めてすぐに単独の登山者とすれ違う。疲れているようなので「小屋泊まりですか? もうすぐですよ」と声をかける。
 すると上目がちに「もうすぐ...と言っても...5分か...10分は...かかるんでしょう?」と息も絶え絶えである。
 その顔が怖くて「あと2〜30分はかかります」などと、本当の事は言えなかった。「がんばってください」とお茶を濁しながら分かれた。

 17時頃、1200mの標識があるところで団体が道をふさいでいた。先ほどの14名のグループだった。
 「何処から来たの?」に「馬場島からー」には笑われてしまった。見れば解るって...「八尾からです」に訂正する。
 遅れている原因は1人が膝をやられて四つんばいになり、後向きで降りていたからだった。皆の明るさと危機感のない雰囲気にそのまま降りてきてしまったが「暗くなる前に降りられるのだろうか?」と不安になった。
 確か先頭で付き添っていた2人の男性は何かを訴えるような真剣な顔で私を見ていた...ような気がする。配慮が足りなかったかもしれないと反省する。
 だが、14人もいるのだから何とでも対策は立てられるだろうと、心配を振り払う。


工事中の建物の完成予想図
 

濁流となっていた早月川
 
 松尾平に降り立ちホッとする。最後の急降を降りきって17時54分、登山口に到着した。誰もいない静かな登山口だった。
 今まで気づかなかったが、登山口の近くに観世音菩薩の石像があった。ほぼ人間と等身大の大きなものだった。
 昨年は5時間で登って4時間で降りたのに、今年は11時間半もかかってしまった。田制さんは「雨の日は疲れるから...」と言ってくれた。
 秋の涼しくなった頃に、又、来るよ。
 白萩川と立山川の水を集めて濁流となっている早月川に沿って車を走らせながら、そう誓った。