唐松岳



この日、唯一出会ったパーティー。2人が同時に踏み抜いて、もがいていた。

所在地富山県立山町、長野県白馬村
八方池山荘登山口 アプローチ大糸線白馬村からゴンドラで白馬大池山荘まで
登山口標高1840m
頂上標高2696m
標高差単純856m
沿面距離Km
登山日2005年3月12日
天 候吹雪
同行者豊本
参考コースタイム
 山と高原地図(旺文社)
八方池山荘(1時間)第3ケルン(2時間30分)唐松岳頂上山荘(20分)唐松岳頂上(10分)唐松岳頂上山荘(1時間30分)第3ケルン(40分)八方池山荘
参考コースタイム
長野県の山(山と渓谷社)
八方池山荘(1時間10分)八方池(1時間50分)丸山のピーク(1時間)唐松岳頂上山荘(25分)唐松岳頂上


 後立山連峰でアプローチが楽なコースは三つある。栂池、八方尾根、五竜遠見からのもので全てスキー場のゴンドラを利用する。
 栂池から白馬乗鞍のコースは前年に踏破済なので、今年は八方尾根から唐松岳を予定していた。
 このコースの冬季経験者、豊本(敬称略)とパーティーを組む。経験者といっしょというのは心強い。5時半に滑川ICで待ち合わせ、白馬村へと向かう。


ゴンドラ前の駐車場で身支度をする
 

ゴンドラ乗り場(彼女達は上で働く従業員?)
 
 糸魚川ICで高速を下りた頃から雪が舞い出す。国道148号線を南下するにしたがい舞う雪の量が増え、それに反比例するかのように交わす言葉が少なくなってくる(^_^;)
 7時を少し過ぎた頃、白馬村に到着する。迷路のようなスキー場の道路を辿ってゴンドラ下の駐車場に車を停める。(駐車代1,000円)
 身支度を終えゴンドラの始発を待つ。早朝運転をするのかと思っていたのだが驚くほどお客さんが少ない。30名もいただろうか? スキー業界の衰退ぶりを垣間見る。
 ゴンドラから降りた後、リフトを2本乗り継ぐ。心の準備が出来ていないだけではなく、服装の準備も出来ていない。いきなりの寒さに身が縮み上がった。


八方池山荘前から歩き出す
 

最初のケルン(八方山ケルン)
 
 8時25分、八方池山荘前を出発。小屋の裏に廻り尾根に取り付く。左からの風が強い。前日までの暖かさで表面がクラストしているが、それほど硬くはない。時々踏み抜く。
 新雪に隠された亀裂にも足を取られる。豊本のアドバイスに従い、スキーをはいた。廻りには夏道用の柵や岩も見えてコースを失う心配はない。 ..と思っていた。
 急登を終えてからやや方向が怪しくなってくる。赤い布がつけられた小さな竿が雪原に挿さっていて助かった。
 ふわっと目の前にトイレが現れた。この建物は冬期間は使えないが天候が悪い時の大きな目印となる。四角いので方向を定めるにも好都合だ。
 このあたりのなだらかで広い斜面は登りには楽だが帰りには嫌な場所となるだろう。見印となる岩とブッシュも広い範囲に点在しているとあまり用をなさない。


次のケルン(八方ケルン)
 

八方池の上にあるケルン(八方池ケルン)
 
 ロシニョールのフリートレックは短いので膝近くまで潜る。9時40分、八方池に到着。池に降っていく登山道の柵とロープは雪原に出ていた。
 八方池ケルンで一息入れて、豊本とこの後の行動を協議する。この先はしばらく樹林帯が続くはずだが真っ白で何も見えない。体力と気力だけではカバー出来ない危険を感じた。引き返す事を決める。
 気持ちの整理に池と思われる所を一周する。豊本はそのまま引き返して行ったがトレースがなくなっていると叫んでいた。10分も経たないうちに膝まであるトレースが消えてしまうような吹雪だった。


池の前の石碑(立っている場所は池の上か?)
 

雪洞訓練に来たと言う9人パーティー
 
 池からの降りの方向が怪しい。どちらを見てもそれらしく感じる。あちこちにブッシュが見え隠れするからだ。
 GPSのトラック機能は移動していないと役にたたないようだ。磁石を見てだいたいの方向を決める。移動し始めてからはGPSのトラック機能に助けられた。
 時々吹雪がやんだ時に見えるケルンなどに向かって直進する。豊本が時々GPSを見て後ろから軌道修正する。
 瞬間、トイレの小屋が見えたときはホッとした。その方向へ向かう。後ろから豊本がもっと左だとGPSを見ながら軌道修正をかけてくる。だがここはGPSの力を借りず自分を信じて直進する。上山時のコースが正しいとは限らない。
 最後はやや右下がりの斜面になったがほぼ正面にトイレ小屋を捕らえてたどり着いた。
 上山時のトイレ小屋の形からだいたいの方角が分かる。しばらく行くと急降となり、細尾根なのでもう間違える心配はない。左側の急斜面に落ちないように気をつけるだけだ。


強風に立ち止まる9人
 

八方池山荘に戻り、小さく乾杯
 
 八方池山荘への少し手前で一団の登山者と出会った。どちらまで行くのかと聞いたら雪洞訓練だと言う。雪は沢山あるか?の問いに、たっぷりあると答えた。
 ベテランもいるようだが危うい歩き方をしている者も何人かいた。クラストを踏み抜いて上がれないでいる女性もいる。大丈夫なのだろうか?
 10時45分、八方池山荘に戻る。かなりの地吹雪で、いったん吹き出すと5m先さえ見えなくなる。八方池山荘で何はともあれ乾杯。


シャモニール白馬

 

家が一軒建つという音響装置
 
 アイスバーンと新雪の滑りにくい斜面を登山靴で、麓まで滑り降りる。スキーの醍醐味は全く感じられなかった。
 岩岳と栂池の間にある豊本さんの友人のペンション「シャモニール白馬」で風呂に入り、昼食をとる。オーナーの新田さんは多趣味な方だった。真空管のアンプで映画館用のスピーカーを鳴らし、バンドではドラムを叩く。スキーはプロ級の腕前との事。
 羨ましいくらい素敵な生き方だ。だが人生はトレードオフである。我々の窺い知れない苦労もあるのだろう。
 美味しい料理と少しのお酒、心地よい音楽と楽しい会話。後ろ髪引かれる思いで「シャモニール白馬」を後にした。

後日談1.
 いつも左からの風ばかり受けていたので気にならなかったが帰ってから変だと思った。立山や穂高では北西の風は左からだが八方尾根では右前方から吹くはずだ。この日の左からの風は南風ということになる。それも氷点下7度の。