西穂高岳



西穂高岳頂上から奥穂(ジャンダルム)と涸沢岳を望む(2005年2月27日撮影)

所在地岐阜県上宝村、長野県安曇村
西穂高口駅 アプローチ神岡町から車で40分、ロープウエイで30分
登山口標高2156m
標   高2908m
標高差単純752m 累積(+)800m 累積(−)50m
沿面距離片道3.9Km
登山日2005年2月20日
天 候 
同行者単独
参考コースタイム
 山と高原地図(旺文社)
西穂高口駅(1時間30分)西穂山荘(1時間30分)西穂独標(1時間30分)西穂高岳(1時間)西穂独標(1時間)西穂山荘(1時間)西穂高口駅 合計7時間30分
コースタイム西穂高口駅(52分)西穂山荘<アイゼン履替8分>(54分)西穂独標<休憩8分>(1時間20分)西穂高岳<休憩10分>(1時間13分)西穂独標<休憩5分>(37分)西穂山荘<休憩21分>(35 分)西穂高口駅 合計6時間23分<休憩52分含む>


 御前5時半、目をさまして外を見ると雪が降っていた。それもかなりの降り方だ。すごすごと布団に戻ってしまう。
 だが今日を逃すと、もう2月はない。とにかく行ってみよう。リュックは昨日のうちに準備をしておいたので着替えるだけでいい。
 6時10分、家を出る。駐車場に行ってみると車の上に20cm以上もの雪が積もっていた。半ば頂上を諦める。


朝日に輝く国道472号線の圧雪
 

ロープウエイの乗り場は団体さんでいっぱい
 
 神岡から472号線に入ると天候が変わりだした。このあたりから天候が変わる事がよくある。今日はいい方向へ向かっているようだ。
 昇る朝日に思わずアクセルを踏み込みそうになる。が、ロープウエイの始発は8時半と決まっているので早く着いても意味がない。慎重に車を走らせる。
 冬場は無料開放されているロープウエイ駅横の駐車場に車を停めて乗り場に向かう。予想以上に団体客が多く、チケットを買っている間に長い列が出来てしまった。


ガスの中、ロープウエイ西穂高口駅を出発
 

西穂山荘までの間に沢山ある標識
 
 並んで待っている時に添乗員さんが話しかけて来た。ひとこと、言いたいと思ったが「いつも申し訳ないと思っているんですよ」と言われて、言いかけた言葉を飲み込んでしまった。
 西穂高口駅に着いてすぐに無料サービスの播隆汁でエネルギー補給をする。煮詰まっているのは昨日の残り物を出しているからだろうか?
 9時28分、身支度を終え、西穂高口駅を出発する。団体さんにやられて、いつもより30分程遅い出発となってしまった。


西穂山荘横でスノーシューからアイゼンに
 

10cm以上あるエビのシッポ
 
 家を出るときの積雪状態から、何も考えずスノーシューを履く。これが大失敗だった。新雪は5cm程しかなく、爪が小さ目のスノーシューは滑って歩きにくかった。
 おまけに昨日のプールでのバタ足の練習が祟って両方のふくらはぎが痛み出す。抑えていたつもりだったが、無理をしてしまったようだ。
 10時20分、西穂山荘到着。山荘を過ぎたところでアイゼンに履き替える。モタモタと8分ほどかかってしまった。このときに右手を露出していたのが祟って、行動している間中、右手の指の痛みがとれなかった。


左に笠ヶ岳が見え出す
 

右にも霞沢岳が見え出す
 
 丸山を過ぎて独標下の直登のあたりからガスが切れだした。時々左手に笠ヶ岳、右側に霞沢岳がその頭を覗かせる。
 カメラを構えると一瞬にして消え去り、シャッターチャンスが難しい。無骨なオーバー手袋も煩わしい。
 10cm程に成長した(?)エビのシッポの向きから風はいつも北西方向から吹いているのが分かる。
 目出し帽の上にさらに毛糸の帽子をかぶり、ヤッケの風防までかぶっているのだが風があたらなくても皮膚が出ているところは全て痛い。
 風速は5〜10mぐらいでこのあたりとしては穏やかな方だろう。この日は最後までゴーグルは使わなかった。


振り替えれば丸山が
 

エビのシッポの上に乗鞍が頭を出した
 
 13名のパーティーと3名(4名だったか?)のパーティーとすれ違う。13名のパーティーは先頭と最後尾を覗いた11名がザイルを結んでいた。
 11時22分、西穂独標に到着する。不思議なことだが独標の上はいつも穏やかだ。一息入れる。
 振り替えると登山者が1人、後を追いかけて来る。独標までなのか、西穂までなのかは分からないが待っている時間はない。
 11時30分、独標の標識にストックをデポして(立てかけて)ピッケルに持ち替え、西穂に向かって独標を降る。


降りて来た13名のパーティーとすれ違う
 

アンザイレンしていた下山中の二人
 
 独標から二つめの小ピークを降りたところで2人組のパーティーに出あう。この人達もアンザイレンしている。だが何故か気休めにしか見えない。
 この後、2組のパーティーと出会うが、やはりザイルを結んでいた。私はどうしてもコンティニュアスビレイは好きになれない。
 ザイルに結ばれているという安心感だけでだらだら歩いているのを見ると道連れザイルにしか見えない。
 だが恋人となら話は別だ。絶対守ってやるという強い気持ちでザイルを結ぶ...って、一言多かったようです(^_^;)


西穂山頂で(氷点下17度)右手が露出
 

コンティニュアスビレイで降りていく3人
 
 見上げると頂上近くに3人パーティーがいる。慎重に登っているのか、かなりペースが遅い。完全にクラストした左斜面のトラバース箇所に出た。皆、アイゼンの爪だけで渡ったようだ。爪痕だけが残っている。
 西穂頂上直下の急登もアイスバーンになっていた。氷が浅くピッケルが効かない。登りはいいが降りが心配だ。
 12時50分、西穂高岳頂上に立つ。奥穂、涸沢が目に飛び込んでくる。先行していた3人と喜びを分かち合う。
 持ってきた寒暖計を見ると氷点下17度だった。潰れたパンが半分凍りかけている。寒さのせいか唇が上下ともパンパンに腫れていた。


西穂直下のアイスバーンを慎重に降る
 

右からの岩場を巻いて降りてきた3人
 
 10分の休憩を取って13時ちょうど、頂上を後にする。まず3人が降りていった。直下のアイスバーンを避けて右からの岩場を巻いて降りるようだ。「足跡があるから大丈夫だ」と言っているのが聞こえる。
 1人ずつ降りているのはいいのだがザイルはあちこちの岩にひっかかってたるんでいる。ビレイヤー(?)も棒立ちのままでぼーっとしている。見ているだけで恐ろしい。
 どちらも危険なことにかわりはないようなので直下のアイスバーンを降りる。ピックの部分を使ってかろうじての2点確保とする。足が滑ったらそのまま制動動作に移る事が出来るはずだ。それでも怖かった。
 鞍部まで降りて3人を待つ。トップが安全な場所まで降りたようなので「時間がないので」と言って3人と別れた。


西穂頂上直下コルから遠くにピラミッドを望む
 

クラストした斜面で突然折れたアイゼン
 
 岩の混じったクラスト斜面のトラバースで突然バランスを崩した。とっさに右足をステップの切ってある場所へ伸ばしたが届かなかった。左足が岩にひっかかったまま左後方に倒れ後ろ向きに滑り出す。かろうじて届いた右足と腹筋の全てを使って止めようとした。
 止めたとは思えなかったが止まってくれた。今から思うとリュックの一部が露出していた岩にふれたのかもしれない。バランスを崩した原因は左足のアイゼンが真ん中で折れて滑ったからだった。
 動いたら又滑り出すような気がしてしばらくは動けなかった。


こんな所はほっとする
 

片足アイゼンで独標まで戻る
 
 この山行きが終わったら底の張り替えを予定していた登山靴はよく滑った。だが西穂から独標までのほとんどは尾根沿いか飛騨側の巻き道だ。折れたアイゼンが左足だったのが不幸中の幸いだった。
 アイスバーンのトラバースでは左足用にピッケルでステップを刻む。刻みながら「今、右足のアイゼンも折れたら...」と思ったら頭が痺れた。信頼の置けない登山道具は使いたくないと思った。
 14時13分、独標に戻る。標識にデポ(?)しておいたストックも無事残っていた。独標を降りるまで安心は出来ないがとりあえずほっとする。
 14時18分、独標を後にする。右に回り込んでいるところは無理をせず右足を谷側にしてバックしながらゆっくり降りた。


降ってきた岩稜を独標から振り替える
 

西穂山荘前で姿を見せ始めた霞沢岳
 
 気が緩んだのか独標を降りてからは何度も滑って転んだ。無事降りてこられた喜びの方が大きくて何度転んでも気にならなかった。
 西穂山荘まで降りてきて窓から休憩室を覗くと高原さんがいた。再開を喜び合う。ホームページに27日西穂高岳予定と書いてあったのでひょっとしたらと思っていたそうだ。
 独標から見えた「追いかけてきた登山者」は彼女だった。朝一番でロープウエイに乗ったそうだが西穂山荘で休憩している間に追い越してしまったらしい。
正月に槍ヶ岳に行って指を凍傷でやられたと言う。あまり無理はしないようにしているので独標で引き返したとの事。
 中指と薬指の爪がとれていた。親指と人差し指にも絆創膏が巻いてあるので聞いてみると別件で凍傷にあったそうだ。やはり懲りない人だ。


天候もよくなり笠ヶ岳もはっきり見え出した 
 

ロープウエイ屋上から焼岳を望む
 
 山荘泊まりを予定している方達も表に出てきて会話に加わる。話し込んでいるうちに霞沢岳が墨絵のように浮かび上がってきた。楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。16時のロープウエイに乗りたかったので、別れを告げて西穂山荘を後にする。15時16分だった。
 笠ヶ岳や抜戸岳も姿をあらわし、夕日に輝いている。15時51分、西穂高口駅に戻る。この日2杯目の播隆汁は煮詰まっていなくて美味しかった。


ロープウエイ屋上から笠ヶ岳と抜戸岳を望む
 

ロープウエイ屋上で撮影を楽しむ人達
 
 屋上で数枚の写真を撮って、慌てて16時のロープウエイに乗った。登山者は皆無。ここは観光地なのだ。
 ふと、朝方の事を思い出す。いっしょのロープウエイに乗り合わせた大学生風の二人組の登山者がいた。いったん外に出てから「中止、中止」と言いながら戻ってきた。煮詰まった播隆汁を食べているときだった。すぐ横でパンを食べ出す。
 「行かないのか?」と問いかけると「下見だからいいんです」と言う。「それじゃー下見にもなっていないだろう」と言いかけたが思いとどまった。だいたいその恰好は何だ?防寒着を着込み、リュックにはスノーシューまで縛り付けてある。
 「せめて独標まで行こう」と言うと「最高でも西穂山荘までです」とヘラヘラしている。おまえ達は登山者の恰好をした観光客か?と思ったのだった。
 そうなのだ、ここは登山基地ではない、観光地なのだ。


ロープウエイ鉄塔
 

新穂高温泉駐車場に取り残された1台
 
 新穂高温泉に戻ってみると1台だけが駐車場の真ん中にぽつんと残されていた。ほとんどの方は土曜日からの泊まりがけだったのだろう。日帰りした方もいなかった。
 端の方に高原さんの赤いシビックが停まっていた。朝は車が沢山停まっていたので気がつかなかったようだ。

後日談その1.
 アイゼンは購入した「マンゾク」(スポーツ用品店)で別の堅牢なものと取り替えてもらえることになった。
 関本さんからのメールに、柔らかい靴では金属疲労で切断することがよくある事らしいと書かれてあった。靴底がすり減って柔らかくなった靴を履いていたので、こちらにも責任の一端があるようだ。
 「マンゾク」には靴底の貼り替えもお願いした。しばらくはプラブーツでの登山になる。重くてスキー以外では履きたくない靴なのだが...

後日談その2.
 アイゼンの履き替え、カメラのシャッター、電池の入れ替え等、右手を手袋からはずすことが多かったからか、親指と人さし指がまだ痛い。
 左頬は風があたったせいか黒くなってしまった。

反省その1.
 登山予定日の前日はしゃかりきに泳がないこと。水泳は意外と疲れが残る。

反省その2.
 登山道具には金を惜しまないこと。と言っても折れたアイゼンもそんなに安すくはなかったはずだ。