槍ヶ岳 |
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所在地 | 岐阜県上宝村、長野県安曇村 | |
新穂高温泉 | アプローチ | 神岡町から車で40分の新穂高温泉から |
登山口標高 | 1100m | |
標 高 | 3180m | |
標高差 | 単純2080m | |
沿面距離 | 往復約29Km | |
登山日 | 2005年5月14日 | |
天 候 | 晴 | |
同行者 | 単独 | |
参考コースタイム 山と高原地図(旺文社) | 新穂高温泉(2時間)白出沢出会(1時間30分)滝谷出会(1時間)槍平(2時間30分)千丈沢分岐(2時間30分)槍岳山荘(30分)槍ヶ岳頂上(30分)槍岳山荘(1時間20分)千丈沢分岐(1時間30分)槍平(1時間)滝谷出会(1時間)白出沢出会(1時間30分)新穂高温泉 合計16時間50分 | |
コースタイム | 新穂高温泉(1時間16分)白出沢出合(57分)滝谷出合(42分)槍平<休憩18分>(3時間17分)槍岳山荘<休憩7分>(18分)槍ヶ岳頂上<休憩10分>(11分)槍岳山荘<休憩24分>(1時間5分)槍平(48分)滝谷出合(1時間7分)白出沢出合<休憩5分>(1時間13分)新穂高温泉 合計11時間58分<休憩1時間4分含む> |
前の週の5月8日、疲れ切って座り込んだ鏡平山荘の屋根から眺めた槍ヶ岳。ベタッと張り付いた垂直にも見える飛騨沢の雪渓が誘っていた。 「そんな所でへばってないで早く来いよ」とでも言っているかのようだった。「待っていろ、体調さえよかったらすぐにでも行く」 翌週、体調はともかく、槍ヶ岳に向かっていた。 |
![]() 新穂高温泉ゲート出発(6時5分) |
![]() 穂高平牧場 柵はまだ雪で壊れたまま |
家を出たのが4時過ぎだったが、空は明るくなりかけている。もう出発できるくらいの明るさだ。この時期はもっと早く家を出るべきか。 はやる心を抑えながら車を走らせる。5時40分、新穂高温泉の無料駐車場に車を停めた。近くで男性が1人、車からスキーを出してセットしている。どこへ向かうのか? 6時5分、林道入口のゲートを通過。標高差と距離を考えて、抑えながら歩く。近道にはコゴミゼンマイが沢山なっていた。帰りに少し摘めるかどうかは体力次第。 |
![]() 白出の手前で林道に倒木あり |
![]() 滝谷から眺める北穂ドームの朝 |
穂高平の牧場は十分な牧草がなく、牛もまだ放牧されていない。雪で壊れた鉄の柵もそのままだ。いつものことだが林道歩きは退屈だ。目を楽しませてくれる新緑さえ、まだない。 白出避難小屋の少し手前で倒木が林道を塞いでいた。(車で入る方は近くに駐車する広場もないのでご注意を→○雪さん)7時21分、白出沢から登山道に変わる。 誰もいなくて一人旅だったら、と思うと心細い。滝谷近くから雪渓が現れてくる。気温が低く、カリカリに凍っていてキックステップも効かない。古い踏み跡の汚れを頼りにソールのフリクションだけで登った。アイゼン、ピッケルを持ってこなかった事を後悔する。 |
![]() 雪に埋もれた槍平小屋 |
![]() 振り返ると槍平と北穂、涸沢、奥穂 |
滝谷を過ぎてからは雪渓が増えてくる。チビ谷を越えたあたりで先行者を発見。ほっとする。追いつこうとしたが、こちらに気づいてピッチを上げたようだ。ひき離され始める。私と同じような性格の持ち主らしい。 この季節の槍ヶ岳に慣れているのか大きな雪渓で蒲田川右俣へ降りていった。追随する。右俣をしばらく登ったあとは灌木の中をぬって槍平を目指す。 雪に埋もれた槍平小屋の近くで先行者が休憩していた。美濃市(岐阜県)から来たという若者だった。時間は9時だった。 |
![]() 遠く長い飛騨沢の登り |
![]() 右上にやっと飛騨乗越が見えた |
彼は槍ヶ岳山荘まで2時間半で行けるという。帰りは30分で降りてくるとも言う。こんな若者とはいっしょに歩けない。9時18分、先行する。 振り返えると槍平の上に北穂、涸沢、奥穂(ジャンダルム?)が新雪で化粧した素敵な姿を見せている。 標高を上げるにつれ、黄色かった雪渓は一昨日の新雪に覆われて純白になっていく。500m程歩いたところで若者に追い抜かれた。 |
![]() 振り返れば遠くに笠ヶ岳 |
![]() 近づく飛騨乗越 だがまだまだ遠い |
奥丸山から続いている稜線上に岩峰が見えてくる。初めて見たときは小槍かと思ったのだが、これは名もない小ピークだ。騙されるとがっかりすることになる。 雪渓は右にカーブしながら少しずつ斜度を上げていく。疲れが出始める頃なのでここからがきつい。2時間半で登り切ると言った若者もペース配分を間違えたらしい。距離が開かなくなった。立ち止まる回数も増えている。 |
![]() ようやく飛騨乗越 風が冷たかった |
![]() 小屋の前から槍ヶ岳を望む |
新雪はくるぶしを越えるようになり、飛騨乗越あたりでは20cmぐらい、吹きだまりでヒザまでとなる。バテてきて数十メートルごとに立ち止まる。やっとの思いで飛騨乗越までたどり着いた。 乗越の向こうに常念岳が堂々とした姿を見せている。だが、風が冷たく、景色を楽しんでいる余裕もなく肩の小屋を目指した。ほとんど使い切った体力を気力で補い、12時35分、槍ヶ岳山荘前に立った。 |
![]() 岩場に架かるハシゴ |
![]() 下山者とハシゴ、鎖 |
山荘前に立ってみて驚いた。山荘の従業員のような人達がいる。もうオープン準備に入っているようだ。登山者も数人いる。 山荘前のベンチにリュックを置き、缶ビールを雪の中に埋めて、頂上を目指す。岩場は腕も使えるので、足が疲れていてもなんとかなる。 雪と岩のミックスだがアイゼンもピッケルも必要ない。足が疲れているので腕の力に頼る。腕の力に頼ると鎖はさらに危ない。岩とハシゴ、鎖を留めるアンカーだけを頼りに登った。 13時、槍ヶ岳頂上に立つ。ほとんど体力の限界だった。 |
![]() 笠ヶ岳と槍岳山荘 |
![]() 頂上からの槍岳山荘 |
頂上にはガイドに連れられた4人のパーティーがいた。下から見たとき、頂上付近をアンザイレンしながらで登っていたパーティーだった。 頂上を一回りして写真に納め、降ろうとしたとき。「おにいさん、写真撮ってー」と女性の声。「おにいさん」なんて言われたのは何十年ぶり? ちょっと言い過ぎだ。 集合写真、万歳写真などを撮らされて、頂上を後にした。降るときに美濃市の若者が登ってきた。どこにいたのだろう? |
![]() 頂上にいたガイドと4人の登山者 |
![]() 常念岳を望遠で引っ張る |
山荘前で乾杯。今日は疲れているがビールは喉を通る。山荘の従業員らしい人にいつから営業するのかと尋ねると、もう営業していると言う。 えっ? 知っていれば缶ビールも食料も持ってこなかったのに... まあいい。食堂「キッチン槍」に入り、2本目の缶ビールに手をつける。そしてカップラーメンを注文した。 |
![]() 一列に並ぶ穂高連峰 |
![]() 中央に立山、左奥に大日岳、手前は野口五郎 |
営業している事を知っていればよかったと思う事がもう一つあった。今日はひょっとしたら誰にも会わない山行きになるかもしれないと思っていた。悲壮感漂う出発だったのである。小屋が営業していることを知っていたなら、もっと明るい気持ちで歩き出せたのに... よく調べもせずに出て来た自分が悪いのである。自業自得、誰にも文句は言えない。 |
![]() フロント前から見た食堂「キッチン槍」 |
![]() 「キッチン槍」 |
![]() 槍岳山荘売店 |
![]() 槍岳山荘フロント |
キッチン槍を通り抜けていった若い従業員は表のベンチに腰掛けたまま動かない。その後ろ姿に寂しさが漂っている。家を思うのか、恋人を思うのか、もう何日も里に降りていないのだろう。 若い頃、弥陀ヶ原ホテルに勤務していた。山での仕事は4泊5日だった。それでも山にいる時間は長かった。山小屋の仕事は下界を捨てなければ勤まらないのかもしれない。 |
![]() ホームシックにかかった(?)従業員 |
![]() 飛騨乗越からの降り 登山者が1人上がってくる |
13時45分、槍ヶ岳山荘を後にした。飛騨沢を足で滑ればあっという間に槍平だ。だが、体力は回復していない。50m程滑っては息を整えなければならない。 この飛騨沢の雪渓で単独のスキーヤー4人とすれ違った。トップは飛騨乗越近く。ラストは千丈乗越分岐のあたりだった。 この時間に降りていく登山者を不思議そうに見ていた。最後の1人は「ひょっとして日帰り? マジっすか? スキーでも絶対無理!」と言っていた。 |
![]() 飛騨沢を足で滑り降りる。が、すぐに息が上がる |
![]() 槍平から下はルートが難しくなってくる |
14時50分、槍平に到着する。立っているのも辛くなっていた。小休止して水分補給をする。ポカリスエットが残り少ない。 美濃市の若者も日帰りだと言っていたが追いついてこない。30分で槍平まで降れると言っていたからまだ余裕なのだろう。 ここからの降りが難しかった。日差しが強く、トレースが消えかかっていて見えにくい。うまく夏道を辿らないと藪がうるさい。 特に雪渓を越えた次の夏道の入り口が分かりにくい。一度、だまし道に迷い込み、戻らされた。沢降りだから決定的に迷うことはないが道をはずすと藪こぎになる。疲れている体だと時間との戦いにもなる。 |
![]() 雪渓がとぎれたところからの夏道が分かりにくい |
![]() キノシタ(モミジガサ)春菊の香りがして美味しい |
15時38分滝谷を通過。昨年とは水の流れが変わっていた。左岸ギリギリに流れていた水の流れが中央付近を2本に別れて流れている。 16時45分、白出沢に出る。残り少ないポカリスエットを全部飲む。いつもは最後まで少しは残すのだが、今回は我慢できなかった。 疲れた足でひたすら林道を歩く。座れそうな落石を見つけては腰を下ろす。しゃがみ込んでしまって一歩も動かなくなった(遊び疲れた)子供に親が手をやいている光景を見ることがある。今は、その子供の気持ちがよく解る。 |
![]() こごみぜんまい(クサソテツ) |
![]() 新穂高温泉ゲートに戻る(18時3分) |
摘んで帰ろうと思っていたコゴミ(クサソテツ)も、その気力がなく、写真に納めただけ。キノシタ(モミジガサ)も何株か見つけたが摘んでいる余裕はない。 喉が渇いて口の中はネバネバ。閉じると上顎と下顎がくっついてしまいそうになる。沢の水も上に牧場があるので飲みたくない。 18時3分、新穂高温泉のゲートにたどり着く。バスターミナルの前でコカコーラを買った。ベンチに座ったまま、しばらく動けなかった。 美濃市の若者はとうとう降りてこなかった。泊まったのだろうか? 私の足跡を辿って藪こぎをしていない事を祈った。 |