槍ヶ岳



槍ヶ岳山頂より雪煙の舞い上がる穂高連峰を望む(2006年12月23日撮影)

所在地飛騨市上宝村、長野県安曇村
新穂高温泉 アプローチ神岡町から車で40分の新穂高温泉から
登山口標高1100m
標   高3180m
標高差単純2080m
沿面距離約24.5Km
登山日2006年12月22日〜24日
天 候22日(曇り)23日(晴後雪)24日(晴)
同行者岸、中嶋、三井
コースタイム22日 新穂高温泉(45分)穂高平<休憩15分>(50分)白出沢出会<休憩20分>(1時間23分)滝谷出会<休憩12分>(53分)槍平<休憩55分>(1時間14分)2450mテン場

23日 テン場(2時間25分)千丈沢乗越(1時間40分)槍岳山荘<休憩30分>(25分)槍ヶ岳頂上<休憩10分>(20分)槍岳山荘(2時間20分)槍平

24日 槍平(38分)滝谷出会(1時間42分)穂高平<休憩10分>(26分)新穂高温泉


12月22日


 お互いに連れていってもらえるものと思っていて準備が遅れた。前の週になって慌てて計画書を作る。
 1泊で速攻の案もあったが、安全を考えて2泊とする。積雪量が多ければ槍平と槍ヶ岳の避難小屋を利用し、3日目で一気に降る。
 積雪量が少なければ中崎尾根で泊まり、2日目で頂上を往復して降れるところまで降って、3日目に新穂高温泉に戻る。結果的にはこれに近い形となった。


朝6時、新穂高温泉に集合
 

6時50分、新穂高温泉出発
 
 朝6時に新穂高温泉の駐車場で待ち合わせる。共同装備を分担しあい、登山届けを提出して6時50分、出発。
 歩き始めてすぐに雪道となる。まだ新しい降りの足跡は昨日のものか? ショートカット道を使い槍平へ抜ける。日帰り登山時の倍以上の荷物が入ったリュックが重い。
 18Kgだったリュックにガスボンベ1個とコンビニで買った行動食、それに共同装備を追加してある。重い...


7時35分、穂高平小屋
 

10時23分、滝谷
 
 白出沢、チビ谷、滝谷と休憩を入れながら登る。11時30分、槍平に出てホッとする。最悪、ここが1泊目の予定地だった。ここより先に進めば2日目が楽になる。
 ここで昼食休憩を取った。行動食で済ませる皆の中でやや冷たい視線を感じながら1人ラーメンを作る。行動食は持っていたが明日のアタック用に残しておかなければならない。


槍平 積雪が多ければここでテン泊予定
 

積雪は少なく1日目の行程を延ばす
 
 ここから中崎尾根に向かう予定だったがトレースは沢沿いに延びている。雪崩の心配もなさそうなのでこれをたどる。いざとなれば中崎尾根へは何処からでも取り付ける。
 槍平より1.5Km、標高差260m、標高2250mの地点でテントを張る。沢沿いなのに両側に小さな尾根があり、上部も尾根となっている。雪崩の心配はなさそうだ。


昨日降ったようなトレースもある
 

振り返れば雲の間に見えるジャンダルム
 
 雪がサラサラだとテン場の雪を固めるのが難しい。4人で踏んでも雪は足下から逃げるばかりで固まらない。仕方なくテントを張ってから床を叩くようにして平にした。
 早めに食事を取り、明日用の水を作って18時頃には床についた。装備が十分でなく、スリーシーズン用のシュラフにシュラフカバーなし(探したが見つからなかった)。
 寒さ対策にホッカイロを1つ入れた毛糸の手袋を足下に入れておいた。そのおかげでか、寒さは感じなかった。


時間は早いがこれ以上先にテン場はない
 

何はともあれ水作り
 
 ジェット機が飛んでいるような夢を見た。何回も飛んでいる。夜の穂高はジェット機が沢山飛ぶんだなーと思っていて、ふと目が覚めた。
 ジェット機の音だと思っていたのは風の山鳴りだった。時間は9時50分。まだまだ眠れるというより、朝までが長いという思いの方が強かった。
 夜半からさらに強くなった風がテントを揺らす。雪が吹き込んできているのかと思ったのはテント内に結露している小さな氷だった。
 谷間でこの風なら、稜線はどのくらいの強さだろう。不安を抱えながら朝を待った。


標高2250mあたりで両側に尾根があり、雪崩の心配のない場所があった

 
12月23日


 4時半、いつの間にか眠っていたようで三井に起こされる。幸い、風は弱まっていた。すぐに朝食の準備にかかる。
 昨日作っておいた水は氷っていた。まずこれを溶かす事から始める。だが、テン泊に慣れている皆と違い、手際が悪い。


4時半起床、7時5分出発
 

天候が分からないのでテントは担ぎ上げる
 
 7時5分、テントをたたんで出発。テントをデポしていくことも考えたが天候が読めない。身が軽い方が行動は早いが安全性とのトレードオフである。
 セオリー通りテントを担いで槍を目指す。


真正面に槍ヶ岳山荘と飛騨乗越が見えてくる
 

風が強いようで雪煙が舞い上がっている
 
 雪は降らなかったようだが、風でトレースが消えかかっていた。それでも無いよりはましで拾いながら行く。
 中崎尾根分岐あたりで輪かんをはき、千丈沢乗越へと急登に取り付く。消えかかっていたトレースを所々で見かけた。彼らもここを登ったらしい
 中間点あたりで雪面が硬くなってきたと思ったとたんにアイスバーンに切り替わってしまった。


斜面の途中でアイゼンに履き替える三井
 

大喰岳西尾根に朝日が上がる
 
 アイゼンをはきたくてもリュックを下ろす場所がない。頼るはアルミのかんじきの爪だけ。木製のかんじきでは刃が立たない堅さだ。
 わずかに岩が露出している場所にたどり着き、リュックをおろしてアイゼンに履き替えた。ストックもピッケルに替える。
 氷の斜面でバランスを崩さないように、重いリュックを担ぐのがまた大変だった。


千丈沢乗越で休憩 風が強い
 

千丈沢乗越から見上げる槍ヶ岳と小槍
 
 9時30分、千丈沢乗越に出る。予想通り風が強い。見上げる大喰岳の稜線に舞う雪煙が朝日を受けて輝いている。
 振り返ればたどってきた飛騨沢に奥丸山、その右に西鎌尾根、見上げれば槍と小槍が見える。この稜線の先が目指す槍ヶ岳だ。


振り返れば飛騨沢と奥丸山
 

千丈沢乗越から見る西鎌尾根
 
 ここからの西鎌の稜線上は雪は少ないが部分的に青氷となっている。先行する三井のピック(ピッケルの先端)が氷に跳ね返されるのを見た。
 アルミのアイゼンが不安を誘う。氷っていないところを選び、岩の露出しているところは岩を登った。それでも何ヶ所かのトラバースは避けられなかった。


西鎌尾根から千丈沢乗越を見下ろす
 

岩陰で風を避けて休憩
 

大喰岳に舞い上がる雪煙
 

小槍がすぐ横に見える 槍ヶ岳山荘は近い
 
 コルに近づくに連れ、風が強くなる。飛ばされそうになり何度か立ち止まる。11時20分、槍ヶ岳山荘の風下に逃げ込んだ。
 風が強いからか、建物の何処に行っても風から逃れられない。避難小屋に入れさせてもらって一息つくことが出来た。


11時20分、槍ヶ岳山荘に到着
 

槍ヶ岳山荘から見上げる槍ヶ岳
 
 ここから最後の100m。中嶋と三井は用心に簡易ハーネスと細引き、シュリンゲを身につける。
 強風のコルを横切って穂先に取り付くと風下にまわるので風は弱まる。だが、雪と岩のミックス壁は夏とは違う。
 春の毛勝山で何度もはずれたアルミのアイゼンが信用出来ず、雪面へ突き刺すピッケルと岩を掴む腕だけが頼りだった。


避難小屋でしばらく休憩後に頂上を目指す
 

頂上直下の中嶋と三井
 
 12時17分、槍の頂上に立つ。槍の頂上は意外に風が弱い。そう言えば西穂独標も風が弱い。大きさは違うが形は似ている。風が下から吹き上げているからだろうか。
 ピーカンの山もいいが、雲がわき、雪煙が舞う山並みもいい。いかにも冬山らしい。


左下に見えるのは槍ヶ岳山荘
 

頂上の祠が傾いている?
 

記念撮影は左から三井、岸、中嶋
 

いまだ未踏の常念岳が遙か彼方に...
 
 この頂に立つために昨日からがんばってきたのに、いざ立ってみると意外に何もない。いや、何もないことはない。4人だけが独占している素晴らしい眺めがある。それも今まで経験したことのない季節の中で...
 それでも大事なものがここ(頂上)にあるとは思えなかった。


雪煙が舞う穂高連峰
 

雪と岩のミックス壁を降る中嶋
 
 山荘に戻り下山路を検討する。凍った西鎌尾根を降るのは怖い。特にトラバース気味に降るところがいやらしい。
 だが、迷っている暇はない。13時ちょうど、槍ヶ岳山荘を出て往路をたどる。強風のコルを少し降ると風当たりは弱くなった。とにかく出来るだけ沢山の爪が雪面を捕らえるように歩く。


西鎌尾根の飛騨沢側をトラバースする
 

そのまま飛騨沢へと降った 飛騨沢は広い
 
 飛騨沢側をトラバース気味に行く。尾根筋と違って凍っていない。それに、ここだと滑落しても飛騨沢の底まで露出している岩もない。
 西鎌尾根をたどらず、飛騨沢へと真っ直ぐ降った。この時、今回の槍ヶ岳登山の成功を確信した。
 飛騨沢にたどり着いてアイゼンからかんじきに履き替える。両翼を広げた飛騨沢は(猫又谷を思い起こさせた)視界の効かない登りでは怖いと思った。


15時20分、槍平まで戻る
 

避難小屋でテントを張る 3人組の先客もテン泊
 
 ひたすら降り、昨日のテント場まで戻る。ここにテントをデポしておいてもよかったのだがそれは結果論である。山では何が起こるか分からない。
 15時20分、槍平まで戻る。槍平避難小屋を利用させてもらって小屋内にテントを張った。
 小屋にはガイドに引率された女性2人のパーティーが先着していた。明日、頂上へアタックだという。こちらも小屋内にテントをはった。
 小屋の中は暖かくリュックをテントの外に出せるのもありがたい。昨晩に比べるとここはホテルかと思ってしまった。


西鎌尾根はアイスバーンになっていて、ピッケルが跳ね返される所もあった

 
12月24日



7時40分、槍平出発
 

 
白出沢から眺めるジャンダルム
 朝、3時半に隣のパーティーが動き出す。出発していったのは4時50分頃だった。こちらは新穂高温泉まで降るだけなのでゆっくりする。起きたのは5時半頃だったと思う。
 最後の食事をとり、テントをたたむ。予備食がかなり余ってしまった。ピッタリだったと言う三井。考え方が違うようだ。
 7時40分、槍平出発。リュックにアルミのアイゼンを縛るときに素手で触れてしまい、小指の皮を少し剥いてしまった。「気温の低いときは素手で金属に触れてはいけない」というのは耳学問だったが本当だった。


朝日を受ける笠ヶ岳
 

笠ヶ岳の右に抜戸岳
 
 降りだが3日目の疲れからか、リュックが重い。小休止を入れながら降った。途中で頑強そうな6名のパーティーとすれ違った。
 3人パーティーが頂上アタックに出ていることを伝える。槍平から中崎尾根に出ると言っている。だが、トレースを見て気が変わるかもしれない。
 白出沢出合で林道に出てひとまずホットする。リュックの重さを別にすれば、後は散歩みたいなものだ。前方に見える笠ヶ岳が朝日に映える。


穂高平から眺める穂高連峰 大喰岳の左奥に槍ヶ岳が隠れるように見える 中央は中岳


穂高平の牧場
 

穂高平からショートカットして林道に降りる
 
 穂高平から振り返る穂高連峰が美しい。今日が昨日だったら、と少し思ったが昨日の午前中もこんな天気だった。昨日、頂上を踏んだはずの槍ヶ岳はすでに大喰岳の陰に消えかかっている。
 ショートカット道を通り、10時45分、新穂高温泉に戻る。リュックを車に詰め込んだとき、久しぶりにあのふわふわした浮遊感を味わった。
 バス停前の無料の温泉風呂で汗を流し、帰路についた。途中で寄った「ウインディー」のコーヒーの美味しさは山行きの困難さに比例していると思った。


10時45分、新穂高温泉に戻る
 

新穂高温泉はのどかな観光地でしかなかった
 
 


無理をすれば前日のうちに降りられたかもしれない