昼闇山(ひるくらやま)



焼山温泉近くから望で引っ張った昼闇山(2007年3月10日撮影)

所在地新潟県糸魚川市
焼山温泉登山口 アプローチ糸魚川市国道8号線から早川を14Km登る
登山口標高370m
標   高1840m 到達点1380m
標高差頂上まで1470m 到達点まで1010m
沿面距離頂上まで7.3Km 到達点まで5.6Km
登山日2007年3月10日
天 候晴れ後曇り後晴れ
同行者単独
コースタイム 焼山温泉(1時間48分)850m峠<休憩10分>(2時間12分)1376m小ピーク<休憩1時間>(35分)分岐点(1時間12分)焼山温泉
合計6時間55分<休憩1時間10分含む>


 放山から眺めた昼闇山。馬蹄形連山の最奥に位置する山。その頂上に立ってみたいと思った。誰もがそう思うに違いない。
 早速、翌週に昼闇山を狙う。だが目覚時計をかけ忘れてしまい、目が覚めたのは6時過ぎだった。酒のせいもある。
 この時間では頂上には届かないと思った。だが、途中まででもかまわないと富山ICから高速に乗る。他に行きたいと思う山がなかったせいもある。


もうすでに日は高く上がってしまった立山連峰
 

糸魚川市早川から望む火打山、焼山、昼闇山
 
 今回のスタート地点は焼山温泉である。広い駐車場の片隅に車を停めさせてもらって8時52分、スタート。
 焼山スキー場のリフト横を歩く。営業をやめてから、かなりの年月が経っているのだろう。ワイヤロープは、はずされているし、鉄塔にはツタが絡まっている。


焼岳温泉に車を停めさせてもらう 8時52分
 

廃墟と化した焼岳スキー場のリフト降り場
 
 すぐに尾根に取り付く予定だったが、林道が除雪してあるのでそちらをたどる。片手にストック、片手にスノーシューという中途半端な格好で歩いた。
 除雪の終了点でようやくスノーシューをはき、さらに林道をたどる。林道がUターンしている地点から斜面に取り付く。
 林道を利用しながらショートカットを繰り返し、一ノ倉川への峠に出る。峠の左のピークは新田山だ。この峠から遠くに見えた山が昼闇山だった。遠い。


林道をショットカットしながら標高を稼ぐ。いやになるくらい昼闇山は遠い

 
 峠からの尾根は細く、急だった。木が生えていて雪はとぎれている。半分木登り状態だが、MSRライトニングの爪が威力を発揮した。木登りにも向いている。
 その後も細尾根は木が生えていて、左側が切れ落ちている片斜面が続く。歩きにくい。おまけに細かいアップダウンが続き、体力の消耗の割に標高が稼げない。このコースを選んだのは失敗だった。


林道の峠から昼闇山を望む 左下は一ノ倉川
 

灌木の多い細尾根は半分木登り状態
 
 910mの鞍部からようやくきれいな雪面になり、歩きやすくなる。雪質も変わりスノーシュー(MSRライトニングアッセント22)で20cmぐらいのゴボリ方(沈み込み)である。
 後方の視界も開けてきて鉾ヶ岳がよく見える。先週登った放山はここから見ると単なる尾根でしかない。
 馬蹄形連山縦走予定の高松山の降りルートを探る。一ノ倉川はゴルジュのようになっていて上部に降りるのは危険。あまり下流におりても林道まで戻らないといけない。使える尾根は1本だけのようだ。


振り返ると手前一ノ倉川の奥に放山
 

左側の鉾ヶ岳と右側の突鶏峰
 
 右側(西側)の阿弥陀山と烏帽子岳は危ない臭いがぷんぷんしている。阿弥陀山はなんとか登れそうだが阿弥陀山南峰の降りの雪渓が樋(トイ)状になって裏側(西側)に消えている。
 一番手強そうなのが烏帽子岳の登りだ。前烏帽子から入ると烏帽子の東面から取り付くことになる。まず正面の岩壁は無理。その右のコルに向かう雪渓は60度以上の急登。コルにたどり着いてもさらに烏帽子の頂上へはかなりの急登である。ここも岩壁かもしれない。
 雪渓をよく見ると上部に亀裂が走っていて、低い山と言えど西穂高岳より難しそうだ。


阿弥陀山南峰(勝手に名付けた)、阿弥陀山北峰(本峰)、烏帽子岳
 
 ゴボリ方は20cmから30cmへと深くなってくる。それでも半分木登状態よりはましで、確実に標高を稼いでいく。
 1300mを越えると雪質が変わり、軽くなってくる。膝下のラッセルも苦にならない。
 13時ちょうど、下から見えていた1380mの小ピークに出る。このピークで再び昼闇山の頂上が姿を現した。近い。手が届きそうだ。


標高1100mではMSRライトニングで20cm
 

標高1300mを越えると粉雪になり30cm
 
 残りの標高差は460m。1時間は無理でも1時間半ほどで頂上に立てるかもしれない。行動食も持っているので15時には頂上を出発出来る。
 帰りはヘッデン覚悟で突っ込むか。あの帰りの細尾根さえ乗り切れば後は暗くても危ないところはない。ここまで来て引き返すのは悔しい。
 リュックを担いだまま頂上を睨み続けた。


雪庇の上に鉾ヶ岳
 

1380mピークから頂上を望む
 
 ふと、頂上直下の雪庇が大きいのに気づく。東側じゃなく北西方向に発達しているのもおかしい。まるで葛飾北斎の富嶽三六景「神奈川沖浪裏」の波のような雪庇だ。
 乗ったら落ちる、乗らないと越せない。眺めているうちに徐々にテンションが下がってくる。あそこはスノーシューとストックの世界じゃない。アイゼンとピッケルの世界だと思った。


今日はストーブを持ち込んだ
 

メインディッシュは担々麺
 
 そう言えば金沢のドクター早川が、雪の締まった早い時間だったので雪庇の下を駆け抜けた、と書いていた。
 朝4時出発、頂上が9時50分で6時間近い時間をかけていた。超人が4時に出発しているのに凡人が9時出発では頂上に立てるわけがない。
 テンションが下がった分、空腹感が増してくる。ストーブで暖かいものを作り、コーヒーも沸かす。ゆっくり1時間を過ごした。


このあたりからちょっと小冒険で左に降りる
 

アケビ平はスギ平に変わっていた
 
 14時ちょうど、下山開始。たどってきた真っ白な尾根に足跡が続いていた。何のためらいもなく、一直線に上へと向かってきている。ふと、それをきれいだと思った。
 単独行ゆえの潔さも感じる。自分の足跡なのだが、例えそれが誰のものであっても、きれいだと思う気持ちに代わりはなかっただろう。

 950m地点からちょっと小冒険。歩きにくかった細尾根を避けてアケビ平側にエスケープすることにした。地図には載っていない小さな谷がいくつも見えるのが気になる。
 ネットの情報では皆、アケビ平を通っているがもう少し上の昼闇谷へ抜けている。
 こちらから降るとアケビ平の手前で大きくえぐれた昼闇谷にぶつかる。右側にトラバース気味に降りて、林道のアケビ平への橋あたりに出るのがベストと判断した。


林道の除雪地点まで戻る
 

振り返って眺める昼闇山 遠い...
 
 左側に小さな谷を眺めながら右へトラバース気味に降る。谷は小さいながら深く切れ込み、雪庇も大きい。
 ガスっているときなど、いったん迷い込んだら登り返した方が早い。簡単に越えられそうにもない谷がいくつも並んでいる。
 今回は視界もよく、うまく林道の橋の上に出られた。アケビ平は昔はアケビの木が多かったのだろうか。今は深い杉林になっている。
 林道をたどり、朝の足跡に合流して、除雪地点まで戻る。振り返った昼闇山は実際より遠く見えた。


笹倉温泉「千寿荘」 日帰り専用(800円)
 

「千寿荘」の広間 左がフロント
 
 15時47分、焼山温泉に戻る。先週は焼山温泉に入ったので今回は笹倉温泉を選ぶ。小さいという噂だが入ってみないと分からない。
 笹倉温泉は客室33室、宿泊人員182名の「龍雲荘」と日帰り専用の「千寿荘」の2棟があり、渡り廊下でつながっている。
 「千寿荘」の温泉は噂通り小さかった。10人も入ったらいっぱいになりそうである。料金も焼山温泉より100円高い。


脱衣場
 

湯船と洗い場(3つだけ)
 
 来週は寝坊しないようにして、もう一回昼闇山にと思った。が、ちょっとしつこすぎるような気がする。それに、こちらにくるなら烏帽子岳のほうが面白そうだ。(雪崩が怖いが)
 今年は雪を求めると、山が限定されてしまう。寂しい冬だった。サイン


頂上まであと460mだった。 スタートがあと2時間早かったら...

 ゴボルという言葉がある。足が雪の中に沈むことを言う。飛騨の神岡では普通に使っていた。飛騨地方の方言だと思っていた。
 「とやま山歩記」でも、この言葉を使うと簡単に表現出来て便利なところでも、一般的ではないと思って使わなかった。
 ところが最近富山の人達も使っているいる事に気づいた。街ではあまり使わない言葉だから耳にしなかっただけのようだ。
 そして、金沢の友人達も使っている。意外と認知度が高い。橋本廣さんも「北越の山歩き」という本の中で使っていた。これからはどんどん使って、広めようと思う。
 ダラダラとした文章がこの一言ですっきりする。
 雪は硬く、つぼ足でも10cmぐらいしかゴボラナイ。 昨日の雪はかんじきでも膝までゴボッタ... うん、なかなか簡潔でいい。


烏帽子岳は何処から取り付けばいいのだろう? 前烏帽子から入るとこの雪渓を登る事になる。
その左側の雪渓の上部に亀裂が見える。たとえ登り切れたとしてその後は何処から取り付く?

 

登りは新田山のすそを巻いた林道沿いを歩いた。 これが失敗で左側が切れ落ちた細尾根は
巨木と灌木に阻まれ、右下がりのトラバースを強いられた。帰りは慎重にアケビ平の下部に降りる