北方稜線



三の窓から池ノ谷右俣を見下ろす(2007年9月30日撮影)

所在地富山県上市町、立山町
池ノ平小屋 アプローチ普通は剱沢から
池ノ平小屋2042m
剱 岳2999m
馬場島750m
標高差累積(+)1042m 累積(−)2337m
沿面距離11.4Km
登山日2007年9月30日
天 候
同行者文山,長勢,中嶋
コースタイム 池ノ平小屋(1時間10分)小窓コル<休憩13分>(1時間12分)小窓ノ王<休憩10分>(50分)池ノ谷乗越(55分)長次郎ノ頭(35分)剱岳本峰<休憩10分>(1時間32分)早月小屋<休憩43分>(2時間25分)馬場島 合計9時間55分<休憩1時間15分含む>


 朝、4時半頃に目が覚めた。ヘッドランプを点けて、昨年作った北方稜線の攻略メモを読む。
 小窓から小窓ノ王までの区間がイメージできない。春先に小窓のコルから見たときは雪渓とハイマツと岩稜の斜面のどこを歩いたらいいのか見当もつかなかった。

 窓の外に八ッ峰が黒いシルエットとなって連なっている。と、屋根を叩く音。
 子供の頃、神岡にあった三井金属の社宅はトタン屋根だった。雨がトタン屋根を叩く音は大きく、慣れていても不快なものだった。
 窓のすぐ前の石垣はヘッドランプの中で少しずつ濡れてくる。見上げると八ッ峰は見えなくなっていた。


小屋監理人の菊池さんが見送ってくれた

 

小屋を出るとすぐに小窓ノ王が見えた

 
 池ノ平小屋はメインルートからはずれた行き止まりのような場所に建っているので今まで泊まった山小屋とは違ったムードを持っている。
 昔ながらの山小屋とでもいうのだろうか? 昔の山小屋を知っている訳ではないが、そんな気がする。
 ベッド棚の間の板の間に飯台を広げて食事をとる。狭いので体を斜めにして座り込む。それが苦にならないのが不思議だ。


鉱山道を行くと左下に小窓雪渓が見えてくる

 

最後は10m程降って雪渓に降り立つ

 
 6時30分、菊池さんに見送られながら出発する。雨具を着てスタートするのは気が重い。同じく北方稜線を予定していたガイド付きの4人パーティーは停滞らしい。
 小窓雪渓に向かって鉱山道を行く。戦時中にこのあたりでモリブデンを掘って運び出した道を鉱山道という。大窓や小窓、白萩川に今もその一部が残っている。
 左側から小窓の雪渓が近づいてきて、最後は10mほど降り、雪渓の上に立った。雪渓はかすかに足跡が残るか残らないかの固さ。
 微妙だがスプーンカットと汚れた部分を利用しながら歩けばアイゼン無しでも行けそうだ。滑落するような斜度でもない。そのまま行く。


暑い日が続いたにもかかわらず広いところは100mもありそうな雪渓が残っていた

 
 8月から9月と暑い日が続いたにもかかわらず小窓の雪渓は大きい。広いところは100m以上ありそうだ。
 降り立ったところから小窓に向けて一直線にほぼ右端を行く。長勢は何故か大きく左に振って左端を歩く。柔らかいところを選んでいるのだろうか?
 7時40分、小窓を登り詰める。近くで見ても相変わらず小窓ノ王までのルートが見えない。経験者の中嶋が頼りだ。


小窓のコルからのぞむ小窓の王

 

小窓のコルから北方稜線にとりつく

 
 とりあえず、踏み跡を行く。踏み跡は意外としっかりしていて迷うことはなかった。左にトラバース気味に登った後、90度右に方向を変えて稜線上に出る。
 しばらく稜線上をたどったあと、また左にトラバースしていく。小窓尾根の鞍部近くから左へと水平に行く。


振り返れば池ノ平山 左端が北峰(1561m)で右端が南峰(1555m)

 
 小窓コルから見た2本の大きなルンゼとその間のハイマツと岩の頑固な支尾根の上を巻いている。
 (残雪期はこの2本のルンゼに残る雪渓をトラバースして中央のハイマツ帯を突破していくのかもしれない)


傾いて見える小窓ノ王

 

池ノ平山と右下に小窓雪渓

 

ベニバナイチゴの群生

 

大きくて甘かった

 
 ほぼ水平にたどった後、きれいな草付きを降り気味に行く。草付きを過ぎた後岩場を真っ直ぐ直登する。途中ちょっと左に入るところが見にくい。
 小窓尾根稜線に近づいたあと、左にトラバースしていくと小窓ノ王直下の窓に出る。


小窓ノ王を直下から見る

 
 小窓ノ王下の窓から眺める池ノ谷がリーは池ノ谷乗越に向かって真っ直ぐに突き上げている。岩の混じったザラ場は200mを一直線に流れ落ちる滝のようだ。
 三ノ窓までは小窓ノ王を右側から巻く。標高差で50mぐらいだろうか。途中急なザレ場もあるが幅は5m以上有り、池ノ谷に滑落する心配はない。


小窓ノ王から池ノ谷ガリーをのぞむ

 

池ノ谷の頭から続く剱尾根

 
 降りきった所から三ノ窓のコルまで30mほどの登り返しがある。池ノ谷ガリーの取り付きはコルから20mほど下にある。
 視界もよくなかったので三ノ窓まで登らなかった。後から考えると、ちょっともったいないことをしたような気もした。


小窓ノ王を右側から巻く 途中急なザレ場の降りとなっている

 

降ってからコルまでは30m コルまで登らずに池ノ谷ガリーにとりつく

 
 おりきったところから10mほど上がって池ノ谷ガリーに取り付く。下部は大きな岩がゴロゴロしたゴーロ帯となっている。
 落石を心配してかたまって歩き出したが意外と岩はしっかりしていて落とすような心配はなかった。途中からそれぞれ自由に歩き出した。
 中頃からガラ場がザレ場に変わる。右側にジグをきった踏み跡があり、それをたどった。


初めはガレ場だが途中からザレ場となる 途中からは右側にジグを切った踏み跡がある

 
 池ノ谷乗越から池ノ谷ノ頭までは斜度60度ぐらいの岩壁となっている。左側のチムニーから行くか正面を直登するかだがどちらも難しくない。
 ホールドは豊富にあり、どこから登ってもいい。30mほどで池ノ平ノ頭に出た。


池ノ平乗越から頭への岩場はホールドが沢山あり簡単に登る

 
 ガスで視界が効かなかったせいかここから長次郎ノ頭までの記憶が定かでない。しばらくは稜線をたどったと思う。
 途中、廻りを岩に囲まれた真っ平らな砂場(土間?)があり、岩場の中のオアシスのようなテン場となっていた。


長次郎の頭へと向かう

 

きれいななテン場

 
 長次郎ノ頭を左側から巻く道があるらしいがはっきりしない。左側に気を取られたわけではないが稜線を離れて左側を行く。
 かすかに踏み跡があり少しずつ下降している。巻き道があるようだがかなりの角度で切れ落ちている。踏み跡が不明瞭になったあたりで少しずつ高度を上げる。
(後日、聞いた話では巻き道はかなり下の方を通っているらしい)


途中左側(長次郎側)を巻く

 

景色が見えないのが残念

 
 角度が急になってきた所で小さな窓に出た。向こう側は切れ落ちている。長次郎の頭だった。
 7〜8mほどクライムダウンして小さな棚に集まる。ここから長次郎のコルまで懸垂下降する。
 8mmほどの2本のスリングがあり、ちょっと古そうだがそれを使わせてもらう。


長次郎の頭の窓(?)

 

窓から8m程降り、長次郎のコルへ懸垂下降

 
 長次郎のコルから先は経験済みだ。難しいところはなく11時35分、剱岳本峰に立った。残っていたウイスキーで乾杯。
 頂上から見渡すとどちらの方向へも歩いて行けそうな気がした。特に東側はジグを切った踏み跡があるように見えた。
 10分の休憩でエネルギーと水分の補給を済ませ、本峰を後にした。


11時35分 剱岳本峰到着

 

「北方稜線は危険」のプレート

 
 事故は核心部が終わった後に起こる。一般道とは言え、しばらくはクサリ場が続く。集中力を欠かさないようにして降った。
 今日の早月尾根は我々だけのようなので離れないようにしながら降る。2600mピーク(ピラミッドピーク)を過ぎて一息つく。


早月尾根のクサリ場

 
 13時17分、早月小屋に到着する。入口の土間で雨具をぬがせてもらい缶ビールで乾杯。暖かいカップヌードルが美味しい。
 14時ちょうど、ふたたび雨具を着て雨の中へ出る。下から上がってきた2人パーティーと入れ違いだった。
 16時25分、馬場島に降り立つ。雨が降っていなければもっと早くたどり着けたと思う。
 「試練と憧れ」など、どうでもいいと思うくらい、いい山行きだった。白萩川へ車の回収に向かいながら一般登山道から遠ざかっていく自分を感じていた。


早月尾根にある唯一の池

 

16時25分 馬場島到着

 
 今回のコースは一泊二日でやる北方稜線のモデルコースとなるだろう。室堂から剱沢経由で池ノ平小屋に泊まり、室堂に戻るのは終バスの心配がある。早月尾根を降るのは車のデポの心配をしなければいけない。
 出発点と終点が同じで時間の心配をしなくていい。なにより今回のコースは1日目もかなり面白いのだ。2日間、山の魅力をたっぷり味わうことが出来る。


池ノ平山から大窓に降りて野営するのが一番スマートかもしれない

 北方稜線で繋がっていないのは赤ハゲ〜大窓と池ノ平山〜小窓だけとなった。ふと、面白いルートを思いつく。
 白萩川から東仙人谷を詰めて赤ハゲに出る。稜線をたどり大窓に降りて池ノ平山経由で小窓に降りる。西仙人谷を降り、馬場島に戻る。
 出来れば大窓あたりで幕営した方がスマートだ。これは面白いぞ。


池ノ平小屋から剱岳本峰への核心部