前穂北尾根 |
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所在地 | 長野県松本市 | |
涸沢登山口 | アプローチ | 上高地から |
涸沢標高 | 2295m | |
前穂標高 | 3090m | |
上高地標高 | 1505m | |
標高差 | 単純795m 累積(+)795m 累積(−)1585m | |
沿面距離 | 片道 Km | |
登山日 | 2007年9月9日 | |
天 候 | 晴れ後曇り | |
同行者 | 長勢、岸 | |
参考コースタイム 山と高原地図(旺文社) | 前穂高岳(20分)紀美子平(2時間)岳沢ヒュッテ(2時間)上高地 | |
コースタイム |
涸沢ヒュッテ(55分)X・Yのコル<休憩15分>(20分)X峰(30分)W峰(5分)V・Wのコル<停滞1時間30分>(1時間20分)V峰<停滞10分>(25分)前穂本峰<休憩20分>(1時間10分)岳沢ヒュッテ(1時間5分)上高地 合計8時間40分<休憩及び停滞3時間10分含む> |
4時過ぎから小屋の中がざわざわし出す。山小屋の朝は早いのが当たり前だと思っているらしい。寝ている人達の事はあまり考えていないようだ。 この人達は朝食の前に出て行ってしまった。 |
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起き出して荷物をまとめてしまうと朝食までの時間をもてあましてしまう。今すぐにでも食事を取って出発したくなる。5時半が待ち遠しい。 5時半ちょうどに食堂に入る。自慢することでもないが一番乗りだった。エネルギーを蓄えるためにいつもの倍の量を食べた。 |
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6時5分、涸沢ヒュッテ出発。小屋の横からゴーロを行く。しばらく行って斜度がついてくると北尾根側に踏み跡があった。それをたどる。 X・Yのコルへのガレ場にかかると踏み跡は右と左に別れている。縦長の草付きが右と左の踏み跡を分けている。これも100mほど登れば合流する。 |
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途中、クモマグサの群落に出会う。源次郎尾根を登ったときに剱沢で見て以来、2度目である。 この花は他の花とは違う雰囲気を持っている。花と言うよりは精密に作られた腕時計のような感じで、無機質な美しさがある。 |
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7時、X・Yのコルに出る。コルから5人のパーティーがX峰に向かって行ったところだった。コルの向こう側には梓川と奥又白池が見える。 X峰の下部は低木の生えた尾根で普通の登山道と変わらない。しっかりとした踏み跡をたどる。上部は岩山となるが浮き石もなく安定した岩歩きとなる。 |
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振り返って眺めたY峰は高度もありそれなりの存在感があった。ここをたどる登山者は少ないとはずだがしっかりした踏み跡が見えた。 |
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X峰にはピークがふたつありふたつ目のピークの方がはっきりと尖ったピークとなっている。こちらは右側から巻く。(ピークから10mほど下側) 目の前にはW峰が立ちはだかる。W峰はまったく草木のない岩山だ。だが大きな岩はなく、小さな岩が積み重なって出来たような岩山だ。 |
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X峰の巻き道で休憩中の5人パーティーを追い越した。そこは岩場ではなく小さな広場だったし、休憩中でもあった。休憩に付き合っているわけにはいかない。 (日本の岩場では先行パーティーを追い越すのはマナー違反のように思われているが伝統あるヨーロッパでは遅いパーティーは早いパーティーに先をゆずるのがマナーとのこと) |
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W峰は大きな岩壁がなく全体的に小さな岩が多い。そのため浮き石も多く、落石をおこしやすいので注意が必用だ。 また難しいところはなく、どこからでも登ることが出来るのも浮き石が多い原因となっているのだろう。 注意するところは頂上から20mほど手前にクラックの入った大きな岩があり、ここは左側(奥又白池側)から巻く。巻き道はそのまま続いているが行かない方がいい。 大岩を回り込んだあと、直上してこんどは右側(涸沢側)から巻く。あとは強引に直上すればW峰のピークだ。踏み跡をそのまま左に巻いていくとV・Wのコルの下に出て急なガレ場のトラバースになり危険だ。 |
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W峰のピークを降っていくとV峰の全貌が見渡せた。数パーティーが取り付いている。前穂北尾根は北穂東陵とは別の世界だ。 北穂東陵は岩稜を渡るものであり前穂北尾根は岩壁をよじ登るものだ。水平と垂直の違いがある。 |
![]() W峰は浮き石が多いので注意 どこからでも登 れるので踏み込まれていないのだろう |
![]() ピークから20m程下のクラックの入った大きな 1枚岩は左(奥又白側)から巻く |
V峰は7名が取り付いていて、コルに3名が待機している。コルまで降りずに登攀者の動きを眺めて登攀ルートをチェックする。 出だしの左へのトラバース気味の部分と上部のクラックの入った凹部(ディエードル)が難しそうだ。その他はなんとかなりそうな気がした。 |
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V・Wのコルで待機しているときに下から上がってくるパーティーがいた。W峰直下の岩を巻いたときにそのまま踏み跡をたどってW峰を回り込んでしまったらしい。1時間以上遅れている。 コルで待機していた3人パーティーは涸沢ヒュッテで通路の反対側にいた人達だった。5時過ぎに出発していったのにここでのアドバンテージはほとんどなくなっている。 3人が出発していったあと、我々も取り付く。1時間30分の待機だった。 |
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右下のチムニーから入った所に1人いる。その上の大きなチョックストーンが詰まったチムニーの左側のクラックの入った凹部を登り、右上する。 その上は逆層がちょっとかぶっているので体制が難しく、浮き石もあり、注意。手足のホールドが少なく、体の小さい人は不利かもしれない。 その後は難しいところはない。直登すればV峰のピークである。右に巻き道のような踏み跡があるがピークから覗くと楽ではなさそうだ。 |
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最初の確保点の小さなテラスから右上に斜上して右側のガリーを目指す。左側のガリーを抜けた者や、その左のクラック部分を登った先行者もいた。 |
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15mほど登ったところから登攀が始まる。左上に斜上してすぐ直登する。凹部に残置ハーケンが沢山あり、ここを登りたくなるが、さらに左に斜上する方がホールドも多く登りやすい。 左上した後直登すると小さなテラスがあり、確保点がある。残置ハーケンふたつにスリングが2本残されていた。 |
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コルから左上の4人いるところまでは普通に歩いて行く事が出来る。ここからが登攀のスタートとなる。 |
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フリーで大丈夫という岸のメールを信じて登攀用具を持ち込まなかった。岸は登攀用具は要らないとは言っていないと言う。どっちにしても手遅れだ。 結局、岸がフリー、私が岸のハーネスを借りてトップ、長勢がセカンドで登ることになった。 装備は8×30mザイルが1本、スリングが4本、安全環付きカラビナが2個、普通のカラビナが4個、エイト環が1個というおそまつな装備だ。確保器もない。 |
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ゲレンデ(ジム)の経験もなく、いきなりのホンチャンが前穂北尾根のリード(トップ)。フォロー(セカンド)は、ほとんど確保の経験のない長勢。そして確保器はエイト環。 気分は限りなくフリーに近い。1P目は左側にトラバース気味に登っていく。下はコルからはずれてスッパリ切れ落ちている。 |
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落ちたらどうなるかを考えると怖くて前に進めない。落ちない自分を信じて行く。結果、特に難しいところもなくV峰を登り切った。 岩を克服するのは技術だけでなく気力も大事な要素だと思った。コースもほぼ下から眺めて描いていた通りに登れたと思う。 |
![]() ホールドが少ないので靴底のフリクションを利用したステミングも使う (長勢撮影) |
三点確保の三点目が指先しかかからない、靴底の端っこしかかからない、もしくはフリクションだけで保っている、というようなときが怖い。 その次のホールドがしっかりしているのが確認できないとそれ以上進む気がしない。しっかりしたホールドがあれば、落ちる前に手を(足を)かける事が出来る。(と思う) |
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V峰からU峰へはコルらしいものはない。U峰の降りは垂直に5mほど切れ落ちている。(岸はクライムダウンしていった) 4パーティーがU峰でだんごになる。最初のパーティー5人が過ぎた後、残りの3パーティーはひとつのザイルで降りた。 5mの懸垂下降で50mザイルをそれぞれ張りなおすのは無駄だ。協力し合う。(最初の5人が降りるだけで5分ぐらいかかっていた) |
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U峰のコルから本峰まで標高差で20m、距離で50mほどだろうか。V峰のピークで北尾根は終了したと思っていい。 本峰までの残りのルートは余韻を楽しみながらのクール・ダウン用のものだ。 本峰に集まった十数名は全て北尾根からの登攀者で、拍手で迎えてくれるギャラリーはいなかった。 |
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しかし、同じ時間に同じ岩壁、同じ危険を共有しあった者達だけがくつろぐ空間には独特の雰囲気が漂う。言葉を交わさなくても通じあえるような満足感がいい。 キャー、キャー、騒ぐ登山者がいないのが幸いしている。 |
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11時45分、前穂頂上を後にした。紀美子平まで降りてくると重太郎新道の尾根にヘリコプターがホバリングしていた。 けが人がいるようでウインチでつり上げられている。ヘリコプターはピタッと静止したまま動かない。流石だ。 12時55分、岳沢ヒュッテに到着する。すぐにビールで乾杯。美味い! 13時40分岳沢ヒュッテを出発して14時45分に河童橋。15時のバスに乗って平湯温泉に戻った。 |
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今回の一泊二日で北穂東陵と前穂北尾根をやるコースは短期間で贅沢を尽くす最高のモデルになると思います。皆さんも挑戦してみてください。 |