西穂高岳〜奥穂高岳



間ノ岳より天狗の頭、ジャンダルム、涸沢岳をのぞむ(2007年8月19日撮影)

所在地岐阜県高山市、長野県松本市
新穂高登山口 アプローチ神岡より車で40分、新穂高温泉
登山口標高2156m
標   高3190m
下山口標高1100m
標高差累積(+)1330m 累積(−)2370m
沿面距離15Km
登山日2007年8月19日
天 候晴れ後雨
同行者単独
参考コースタイム
 山と高原地図(旺文社)
西穂高口駅(1時間30分)西穂山荘(1時間30分)西穂独標(1時間30分)西穂高岳(不明)間ノ岳(不明)天狗ノ頭(不明)天狗ノコル(不明)ジャンダルム(不明)奥穂高岳(30分)穂高岳山荘(5時間30分)白出沢避難小屋(1時間30分)新穂高温泉
参考コースタイム
山岳鳥瞰図(株式会社ジオ)
西穂高口駅(1時間)西穂山荘(1時間30分)西穂独標(1時間30分)西穂高岳(3時間)天狗ノコル(3時間30分)奥穂高岳(40分)穂高岳山荘(5時間20分)白出沢避難小屋(1時間30分)新穂高温泉
合計18時間
コースタイム西穂高口駅(40分)西穂山荘(40分)西穂独標(40分)西穂高岳(40分)間ノ岳<休憩5分>(20分)天狗ノ頭(15分)天狗ノコル(55分)ジャンダルム(40分)奥穂高岳<休憩5分>(20分)穂高岳山荘<休憩40分>(1時間55分)重太郎橋(45分)白出沢避難小屋(1時間5分)新穂高温泉
合計9時間45分<休憩50分含む>


 軟弱な山行きが続いたのでちょっとがんばってみたかった。涼しいところへも行きたかった。久しぶりに単独行の孤独感も味わいたい。
 そんな山行きには、人の少ない西穂〜奥穂がよく似合う。ロープウエイの始発時間が遅くなっているのが気になるが、ヘッデンを覚悟すれ気になれば何でも出来る。


第二ロープはガスの中に入っていく

 

西穂高口駅前広場 7時40分出発

 
 4時半に家を出て国道41号線を南下し、神岡から471号線へと入る。通い慣れた道だ。6時過ぎに深山荘近くの無料駐車場に着く。
 近くの車から降りてきた女性が笑顔だけで挨拶してくる。さわやかな朝だ。いや、にやけている時ではない。気を引き締め直して身支度を終える。
 駐車場から歩くこと約10分、6時半にロープウエイ乗り場の建物前に並ぶ。


この100m手前では雨が降っていたのに

 

独標とピラミッドをのぞみながら丸山を行く

 
 6時前に改札が始まる。いよいよ自分の番で、改札口を通ろうとした瞬間、駅員さんがあと2名ですと言う。後ろにいたご夫婦に席を譲った。
 どうせ第2ロープウエイは第1ロープウエイの2便を受けてからの発車だろうと思っていたのだが甘かった。鍋平からのお客さんが多かったのか、すでに出発してしまっていた。


奥穂からやってきた高原さんとすれ違う

 

独標から降る人達と焼岳

 
 10分以上待たされたあと、第2ロープウエイに乗り込む。2階建てのロープウエイの2階はいつもいっぱいになるが、1階はガラガラ。今回も1階には10人もいない。  西穂高口駅の屋上でストックのセットをしているときに団体さんが出て行こうとした。慌ててスタートする。団体さんは追い越すのは大変だ。
 出発時間は7時40分。3年前は6時40分だった。ぴったりの1時間遅れ。


人でいっぱいの独標と奥にピラミッド

 

西穂独標

 
 2便のロープウエイは1便と10分〜20分ほどしか違わない。時間的にはたいしたハンディーではないのだが1便の人達を追い越さないといけない。それが煩わしい。
 だが今回、細い登山道で先行者を追い越すいい方法を見つけた。 音を立てながら急速に近づくのがいい。だいたい驚いて振り返り、道を開けてくれる。


西穂高岳

 

この岩戸で飛騨沢側から岳沢側へと抜ける

 
 今まで気を遣って静かに近づいたのがいけなかったのだ。中には振り向いただけで知らん顔してそのまま歩いて行く人もいる。何も考えていない。

 追い越すときでもふれあいがある。先週、南アルプスでシュンちゃんといっしょだったという人、1便をゆずったご夫婦、駐車場で笑顔だけで挨拶した女性、達とのたわいもない一言。これはこれでなかなかいい。山は人と人とが出合える場所なのだ。


西穂高岳と間ノ岳の間の小ピークを降りながら間ノ岳を見上げる

 
 西穂山荘手前で大粒の雨が降ってきた。滑る岩を雨具を着て歩くのはいやだ。一気に心が暗くなってくる。だが引き返すには早すぎる。
 と、登山道に大きなスーパーのレジ袋が落ちている。見て見ぬふりが出来ないくらい大きい。人の頭ほどもある。拾う。
 8時20分、西穂山荘に到着する。山荘に寄ってゴミを届け(?)、すぐに出発する。予定外のことで2分ほどのロスとなる。
 丸山近くでガスの上に出た。青空がひろがり山々が顔を出す。もう行くしかなくなった。


間ノ岳の登りで降ってきた小ピークを見上げる

 
 このあたりの先行者は山荘泊まりの人達らしい。皆、空身に近い格好で歩いている。独標までなのか、それとも西穂高岳まで行くのか?
 上から大きなリュックを担いで降りてくる女性がいた。目立っている。近づいてみると福井の高原さんだった。奥穂でテントを張ったという。
 最近赤い車を見かけなかったと言うと、しばらく剱の方に行っていたと言う。今日は奥穂から白出への日帰りか、と簡単に聞いてくる。すごいね〜という話にはならない。


間ノ岳頂上より天狗の頭、ジャンダルムをのぞむ 手前の絶壁が天狗ノ頭の逆スラブ

 
 9時ちょうど、西穂独標に到着。西穂山荘から40分だった。ゴミを拾って西穂山荘に行ったり、高原さんと出会わなければもう少し早かったはず。すぐに向こう側に降る。
 このあたりは普通の登山道だ。飛騨沢側の巻き道が多い。冬季は左斜面のトラバースが嫌らしいところだ。
 9時40分、西穂高岳到着。西穂高口駅から西穂山荘が40分、西穂山荘から独標が40分、独標から西穂高岳が40分。合計2時間だった。


天狗ノ頭の逆スラブはクサリを使わず、靴底のフリクションを利用して登った

 
 ここも休まず先を急ぐ。3年前より出発が1時間遅く、日も短くなっている。体力も落ちているに違いない。
 しばらくは踏み跡もしっかりしていて迷うところはない。小ピークを降ってちょっと上がりかけたところが間違えやすく、直進して行きそうになる。
 その先は降れないので間違いに気づくはずだ。実際は鞍部の右下にクサリがあり、垂直に15m程降る。そこから岳沢側を巻いて間ノ岳とのコルに出る。


天狗ノ頭

 

天狗のコル

 
 間ノ岳へはやや拾い岩稜を行き、少し右側から巻いて小さな鞍部に出る。そこから左側のルンゼ状のガレ場を詰めると間ノ岳の頂上だ。
 10時20分、間ノ岳の頂上に立つ。この区間も40分だった。間ノ岳の頂上には相変わらず標識がなく、岩に白いペンキで間ノ岳と書いてあるだけだ。
 頂上にはザイルを結んだ3人のパーティーがいた。お腹が空いていたこともあり、小休止を入れる。今日初めての休憩だ。


ジャンダルムへ登りで天狗ノ頭を振り返る 飛騨沢側についた巻き道が見える

 
 10時25分、天狗ノ頭に向かう。間ノ岳から見た天狗ノ頭の登りはスリリングな岩肌をしている。天狗ノ頭の逆層スラブと呼ばれているクサリ場だ。
 間ノ岳の降りも不明瞭なところがあって注意が必要。最後は岳沢側を巻いて間天のコルに降り立つ。


ようやくジャンダルムが目の前に

 

ジャンダルムを行く登山者

 
 逆層スラブは左側に長いクサリが張ってある。だが普通のコンディションならクサリに頼らなくても大丈夫だ。
 靴底のフリクションを利用する。そのフリクションも限界に近い。滑ると危ないので3点確保は大原則。滑ったとき他の2点で体を支えきれる体力とバランス感覚が必要だ。
 10時45分、天狗ノ頭に出る。ここから天狗のコルにかけては大きく飛騨沢側を巻く。最後はクサリを2本繋い天狗のコルへ垂直に降りる。


ジャンダルムの巻き道に登山者がいる

 

巻いた後、ジャンダルムを振り返る

 
 ここからジャンダルムに向けての登りが長い。飛騨沢側のガレ場をしばらく登り、やがて稜線に出る。時々飛騨沢側に回り込むので注意が必要だ。
 岩の色や感触で踏み込まれていないと感じたら深入りしないこと。このあたりは左側に踏み跡がないか探せばいい。後半は大きく岳沢側を巻く。
 ここですれ違った登山者は穂高で何回かあっている若者だった。今回、初めて名前を名のりあう。彼は森君と名のった。
 ロープウエイの始発が遅くなったので逆コースの白出から登ったと言う。そういう発想はなかった。ロープウエイで稼ぐ標高差も魅力的だし、最後に時間に追われるのもいやだ。
 彼とはまた、穂高のどこかであうことだろう。


ロバの耳 この右側の岩肌を降る登山者

 
 このあたりからバテが足にくる。顆粒のアミノバイタルを水で流し込んだ。筋肉が悲鳴をあげ始めているのに、こんな物でごまかしていいのだろうか?
 大げさに言えばモルヒネで痛みを誤魔化しているようなもので、ひょっとしたら体にはよくないものかもしれない。
 稜線に戻ってからは狭い岩稜を踏み跡に注意しながら登る。素手だと踏み込まれていない岩はざらざらしているのですぐに分かる。


前の写真のアップ 登山者が見えるだろうか

 
 このあたりも飛騨沢側を巻く方が多いようだ。ようやく登り終えて平らになると正面にジャンダルムが現れてくる。長い登りが終わってほっとする瞬間だ。
 裏ジャンダルムは近すぎるせいもあり、正面からのようなかっこよさはない。鞍部から短いクサリを登り、左に回り込りこみながら登るとジャンダルムの頂上に出る。右にトラバースして回り込むとロバの耳だ。


行く手に馬の背 馬の背は巻かずに稜線を直進する

 
 ロバの耳は右側から回り込んですぐ左の急な斜面を降る。疲れもたまってきていて、意外に危険なところである。集中力をきらさないようにして降る。
 50m近く降ってまた登る。いったん平らな部分に出ると正面が馬の背だ。馬の背と言うより剣竜(恐竜)の背のようだ。
 高所恐怖症の方にはきつかもしれないが、手がかりや足がかりがしっかりしていて難しくはない。


ここから馬の背の核心部 手がかり足がかりが豊富で意外と安全

 
 この岩稜を超せばもう後は登山道を奥穂高岳頂上に向かって歩くだけだ。12時35分、奥穂高岳頂上に立った。
 シャリバテ気味でパンをほおばる。疲れからかのどを通らないので水で流し込む。


奥穂を越えて白出のコルへ降る

 

穂高岳山荘と降りの梯子

 
 13時ちょうど、穂高岳山荘まで降りる。水分補給を兼ねて(?)待望のビールで1人乾杯。ご褒美の意味を込めてロング缶にする。
 山荘の前は都会のように賑やかだ。奥穂に向かう団体さんと涸沢岳に向かう団体さんはどちらも山荘泊まりのようだ。空身で北と南に別れて登っていった。


穂高岳山荘玄関

 

山荘前広場

 
 前回のラーメンはちょっといただけなかったのでうどんにする。冷凍の麺を使っていてこしがある。同じ価格(800円)なので麺類を注文するならうどんがお奨めだ。
 13時40分、穂高岳山荘を後にして白出沢を降る。降り始めてすぐに雨となる。この沢とは相性が悪い。
 通り雨ではなさそうなので雨具を着た。寝不足とビールが効いてきて睡魔が襲う。歩きながら眠りそうになる。辛い。


穂高岳山荘フロント

 

うどん(800円)

 
 どこかに横になりたいがそんな場所もない。とにかく滑らないよう気をつけながら降る。運転をしているときに襲われる睡魔のようだ。
 右の方で落石の音がする。ガスで何も見えない。核心部が終わって帰るだけにしては長いコースだ。奥穂から2100mの降りである。


白出沢の降りはいつもこうだ

 

指輪物語に出てきそうな風景

 
 15時30分、白出のガレ場を降りきり、樹林帯に入ったところで登山者が登ってきた。
 穂高岳山荘までどれくらいかと聞いてくる。あと4時間ほどだと答えるとがっかりしていた。この人の歩き方では気休めなタイムは言えない。
 標識がないので沢を登っていってしまった。登れなくなったので戻ってやっと道を見つけた、と、ちょっと怒っている。
 地図を持たずに山に登って、道を間違えたのを人のせいにするのは、なんとなく違うような気がするのだが...


重太郎の岩切道

 

重太郎の岩切道と白出沢の雪渓

 
 重太郎の岩切道は前よりは整備されていた。それでも白出沢に降りるところはまだ荒れたままだ。
 沢にはまだ橋が架かっていなかった。それでも水量が少ないので問題はない。
 遠くでなっていた雷が近づいている。やんでいた雨も降り出した。だが白出沢を渡ってしまえばもう危険なところはない。


白出沢避難小屋跡の水場

 

棚谷の橋の修復工事

 
 16時20分、白出沢出合の避難小屋跡に到着する。ここまで降りてしまえばもう終わったようなもので、あとは林道をダラダラと歩くだけだ。
 雨に濡れながら歩く。歩いている姿は自分では見えないのに格好のいい歩き方をしていると感じる。ハードな山をやったあとに感じる浮遊感とも似ている。
 辛くてもまた山に行きたくなるのはこの(大好きな)瞬間を感じたいからかもしれない。


イワギキョウ

 

ノアザミ

 

トリカブト

 
 17時25分、新穂高温泉に到着する。3年前より1時間遅く出発したのに降りてきた時間はいっしょだった。1時間も早く駆け抜けたことになる。まだまだ行けそうだ。