奥穂南陵



岳沢を詰める 左上に見えるのは南陵のトリコニー(2007年7月28日撮影)

所在地岐阜県高山市、長野県松本市
上高地 アプローチ平湯温泉からバスで
登山口標高1500m
標   高3190m
標高差単純1690m
沿面距離14Km
登山日2007年7月28日
天 候曇り後雨
同行者山岸、長勢、岸
コースタイム河童橋(1時間40分分)岳沢ヒュッテ<休憩25分>(30分)南陵取付(1時間45分)トリコニー(1時間40分)南陵の頭(7分)奥穂高岳(30分)奥穂山荘<休憩45分>(2時間33分)白出出合(1時間10分)新穂高温泉
合計11時間5分<休憩1時間10分含む>


 白萩川から小窓を往復した日に中島と三井が奥穂の南陵をやっていた。お互いに残念がった山行きだった。
 岳人の6月号にも載ったバリエーションルートで、ザイル無しで何とかなりそうである。2人は岳沢にテントを張って3日かけている。
 地図を眺めているうちに奥穂から白出に抜ければ日帰り出来そうだと気づく。奥穂から吊り尾根経由で岳沢に戻るよりも白出から新穂高に抜けた方が早い。
 だいたい白出沢のコースタイムはオーバーだ。奥穂高岳から新穂高温泉は4時間ちょっとあればいい。


夜明けの上高地バスターミナル前

 

朝焼けの焼岳

 
 新穂高温泉に車を1台デポして平湯温泉でテントを張った。バリエーションルートに集まるのはいつものメンバーの、山岸、長勢、岸。
 高崎市の山岸とは朝方に合流となる。テン泊はやはり飲み過ぎるようだ。懲りもせずに反省の朝を迎える。


河童橋から望む奥穂南陵 下が取り付きで上が南陵の頭

 
 あかんだな駐車場始発のバスは幾人かの登山客を残して定時前に出ていってしまった。一台では乗り切れなかったようだ。
 都合よく目の前に停まっていたタクシーに跳び乗る。上高地まで5000円。バス代より1人あたり170円高いだけだ。


河童橋から南陵を望む山岸、岸、長勢

 

岳沢から望む天狗の頭と天狗のコル、天狗沢

 
 5時30分、河童橋を出発する。梓川の右岸をたどり、岳沢へと入っていく。岳沢ヒュッテ跡までのコースタイムは2時間30分。
 左側の独標から奥穂までの稜線を眺めながら歩く。独標、西穂、間ノ岳、天狗ノ頭、奥穂がなんとか同定できる。ジャンダルムは見えない。


中央のルンゼをたどった長勢と岸、山岸と池原は右の尾根をたどる どちらでもいいようだ

 
 7時10分、岳沢ヒュッテ跡に到着する。岳沢ヒュッテは仮小屋で細々と営業をしていた。それでも水場とトイレ、売店があり、登山者にとってはありがたい。
 軽く朝食をとって水分補給をする。気持ちが悪く、あまりのどを通らない。自業自得とは言え、最悪の体調だった。


岳沢ヒュッテ跡の仮小屋で細々と営業していた

 

岳沢を詰め、雪渓に出る

 
 7時35分、岳沢ヒュッテ跡を出発。テン場の少し手前で重太郎新道をはなれ、岳沢をたどる。
 水流のない涸れ沢は大きな石もなく、他の3人は快調に飛ばしていく。今日は徹底的に後ろからマークすることにする。と、言うかそれしか出来なかった。


雪渓上部から望むトリコニー 一番左のピークは登らなかったような気がする

 
 途中から雪渓歩きとなり、さらにピッチが上がっていく。雪渓の正面に三つのらくだのこぶのようなピークが見えてきた。トリコニーらしい。
 想像していたよりかなり大きい。(トリコニーとは昔の登山靴の先端に打ってあった滑り止めの金具のことで、形がよく似ているところから名付けられたとある)


右の沢に大滝があるはずだが水量が足りなかった 左の涸れ沢から取り付き二手に分かれる

 
 左に扇沢を見ながら滝沢を行く。滝沢大滝の手前で左の尾根に取り付く。雪渓が切れて大きなシュルンドとなっている。左側から回り込んで扇沢と滝沢の間の涸れ沢に降り立つ。
 そのままルンゼを詰めていく岸と長勢。登りやすそうな右側の尾根に回り込んだのは山岸と池原。
 この最初のちょっとした違いがそのままコースを分けてしまった。


左側のルンゼと右側の尾根に別れる

 

尾根コースは草付きが多い

 
 柱状節理がむき出しになったルンゼは、難しいところがなければ歩きやすそうだ。尾根沿いは踏み跡があり低木の手がかりも豊富で歩きやすいとは言えない。だが安全なコースである。
 途中で踏み跡をはずしてしまいハイマツの中に迷い込んでしまった。急登のハイマツ帯は枝が全て下を向いていて手強い。
 片手で枝を分けながら、もう片方の手で体を持ち上げなければいけない。猛烈に体力を使いながらもほとんど進まない。


写真中央の重太郎新道の「カモシカの立場」に人が見える 重太郎新道も急登なのが分かる

 
 ルンゼに逃げようにも崖になっている。ダケカンバの木に登って見回すと右手にわずかにハイマツのない部分が見えた。
 ハイマツ帯を降り気味にトラバースして踏み跡に戻った。そのまま草付きをたどり、ルンゼから尾根に戻ってきた長勢と岸に合流する。


ルンゼをたどった2人も尾根コースに合流

 

一番右に見えたトリコニーのピナクル横を行く

 
 しばらく行くと草付きから岩へと変わり、核心部へと入っていく。いよいよと言うところで雨となった。
 雨具をつけると歩きにくくなるがしょうがない。雨に続いてガスもかかってくる。西穂から明神までのパノラマの風景が見られない。
 それらは見慣れた風景で諦めもつくのだが、南陵の全体像が見えないのが残念だった。


若干巻くところもあるがほぼ稜線を行く

 

岩場としてはV級程度とのこと(岸談)

 
 3人とは10〜20mほどしか離れていないのにガスでまったく見えない。声が聞こえるだけだ。
 コース取りは完全にオン・サイト、自分のルート・ファインディングを信じるしかない。
 直登出来るのか?巻かなきゃいけないのか?その先が見えない。2日酔いを忘れるほどの緊張感。
 それは山の楽しみの中のひとつである。それも簡単に味わうことの出来ない最高に贅沢な瞬間である。


ガスがかかり全体像が見えない

 

最後は草付きをたどると南陵の頭に出る

 
 濡れた岩は滑りやすいと言われている。だが実際には岩自体はそれほど滑らない。滑るのは岩に付いた苔である。
 黄緑色の苔は乾いているときはそれほどでもないが、濡れると滑りやすくなる。苔を踏まないようにして歩くのも雨の日のテクニックのひとつだろう。


頂上直下の穂高神社南宮

 

穂高岳山荘手前で一瞬ガスが晴れる

 
 ふたつめトリコニーを越えて行くと左側にぼんやりとピークが見えた。三つ目のピークは通らないようだ。
 小さなクライムダウンを混ぜながら最後は岩交じりの草付きとなる。左側から人の声が聞こえてくる。奥穂頂上のようだ。
 小さなピークを越えたところに標識が立っていた。吊り尾根の途中にある南陵の頭だ。たどり着いた瞬間、終わったと思った。
 気がついてみると今回の目的地はここだったのだ。奥穂の頂上は帰路の通過点に過ぎない。


穂高岳山荘のラーメン(800円)

 

穂高岳山荘の裏側から白出へと降る

 
 11時37分に奥穂頂上を通過し、12時7分、穂高岳山荘まで降りる。稜線は雨風が強い。
 穂高岳山荘は登山者でごった返していた。テーブル席はもちろん、土間も濡れた雨具のまま立ちつくす人でいっぱいだ。
 壁側にある長いすを確保して腹ごしらえをする。ラーメンの味はまったく分からなかった。缶ビールも苦いだけだった。


雨に濡れた岩は滑りやすい

 

下から迎えに来てくれた(?)のは中嶋

 
 白出沢コースは重太郎橋の雪渓が薄くなっていて、いつ落ちるか分からないので降りないようにとのこと。
 途中の雪渓もアイゼンとピッケルがないと危険だという。軽量化を図ってどちらも持ち込んでいない。
 吊り尾根から岳沢を戻るか、ザイテングラードから涸沢に降るか。どちらを選んでも今日中には帰れない。白出沢を降ることにする。


アイゼンもピッケルもなく慎重を期す

 

白出を振り返る

 
 白出沢の全部に雪渓が残っている訳ではなかった。一安心である。何組か登ってくる登山者もいるので様子を聞く。
 中には不十分な装備で降りてくる我々に不快感を示す登山者もいた。その目は「山を甘く見ているお前達の様な登山者が遭難騒ぎを起こすんだ」と言っている。

 雪渓を越えて登ってくる1人の登山者は遠目でも分かる中嶋だった。今日、穂高岳山荘で泊まる予定である。
 広いつばの帽子を被った姿、そのひょうひょうとした雰囲気に、脈絡もなくスナフキンを連想させた。


右の沢が白出沢

 

雨が降ったり止んだりで着替えが忙しい

 
 穂高岳山荘は混んでいると言うとあっさり諦めていっしょに降りることになった。迎えにきてもらったような感じだ。
 落石の混じった雪渓を慎重に降る。重太郎の岩切道は落石でズタズタになっていた。急いで通り過ぎる。心配していた重太郎橋の雪渓は厚く、踏み抜く心配はなかった。
 ここを過ぎて胸をなで下ろす。もう危ないところはない。ただ歩くだけだ。


落ちそうだと驚かされた重太郎橋の雪渓

 

白出沢出合に戻った山岸、長勢、岸、中島

 
 15時25分、白出沢出合に到着する。引き込んである水が冷たくて美味しい。林道をゆったりと歩いて16時35分、新穂高温泉に戻った。
 せっかくデポした車のキーを平湯温泉側の車の中に置いてきてしまっていたチョンボは、中嶋の車が回送してくれて助かった。ありがとうスナフキン。


穂高岳山荘〜新穂高温泉は省略

 

岳沢ヒュッテから南陵の頭までの核心部

 

ゴゼンタチバナ

 

タカネヤハズハハコ

 

イワウメ

 

コバイケイソウ