ソンボ山偵察



まるで秋山のような雰囲気の林道(2007年3月31日撮影)

所在地飛騨市神岡町
土(ど)集落 アプローチ猪谷から国道260号線を南下して打保から川を渡って少し戻る
林道入口520m
林道終点1085m
標高差単純565m
沿面距離片道5.8Km
登山日2007年3月31日
天 候曇り後雨
同行者単独
コースタイム 林道入口(1時間45分)林道終点<休憩40分>(1時間25分)林道入口
合計3時間50分<休憩40分含む>


 9時を少し過ぎた頃、次男を金沢に送る予定が急にキャンセルとなる。天気予報は午後から雨。時間は少ないがどこかに行きたい。
 先週末、中途半端に終わったソンボ山の偵察を思いつく。同じ所では芸がないので裏から(宮川から)取り付いてみることにする。


町道入口 
 

2軒しかない土(ど)集落
 
 国道41号線を南下して、猪谷から国道360号線に入る。この宮川沿いの道は越中西街道と呼ばれ、尾張と越中を結ぶ江戸時代の主要な街道であった。
 現在は国道41号線が交通の要で、JR高山線が走っているというのに、過疎化が進んでいるようだ。
 打保で左にまがり、宮川の右岸へと橋を渡る。少しとやま側にもどると考古民俗館と書かれた立派な建物がある。ここから右に分岐して洞谷をのぼる。


林道入口 ここから歩く
 

崖崩れは地震の影響か?
 
 洞谷には土(ど)、中村、洞(ほら)、奥ヶ洞の集落があり、池ヶ原湿原を分水嶺として大きく右に曲がり、菅沼谷を降ってまた宮川に戻る。
 この菅沼谷の奥に観光用に整備された鍾乳洞があり、大きなレストランもあった。それを見つけたのは30年近く前になるが、既に廃墟となっていた。
 廃村、廃墟、廃屋などに強く惹かれるものがあり、何度も足を運んだことがあった場所でもある。


風に落ち葉が舞う林道は秋のようだった
 

徐々に雪道となる モナカ雪状態で歩きにくい
 
 2軒しかない土(ど)の集落に、運良く人が表にいた。ソンボ山への道をたずねると林道の分岐を教えてくれた。集落から200m程先らしい。
 分岐点には車が10台ほど停められそうな広場があり、先客がいた。富山から来たという2人の釣り人だった。
 11時30分、林道に入る。まだ手入れがされていないようで、折れた木の枝や岩が転がっている。当然車は入らない。


砂が雪の上に流れ落ちている
 

雪の上に流れ出した砂
 
 風に枯葉が舞い、秋山を登っているような錯覚に襲われる。道端にフキノトウが生えているのに違和感を感じるほどだ。
 しばらく行くと、腰に鉈とノコギリを差した地元の人と思われる老人とすれ違う。ソンボ山のことをたずねると、向こう側には行ったことがないと言う。
 林道以外の道はないようだ。


宮川の対岸に見える山は白木峰、金剛堂山
 

周遊している林道から派生した林道を行く
 
 標高を上げるにつれ雪道となってくる。徐々に深くなって行く雪は中途半端にクラストしたモナカ雪状態で歩きにくい。スノーシューをはく。
 林道の土手を見ると砂で出来ている。地図で見るとソンボ山の東面から南面にかけてなだらかに波をうった不思議な、複雑な地形になっている。
 複雑に蛇行した浅い谷は全体が砂山だから出来た地形かもしれない。砂山が崩れるので深い谷が出来ないのだ。
 ガスったり吹雪いたりしたら間違いなく迷う地形だ。支尾根が蛇のようにのたくっている。


林道終点がソンボ山の支尾根だった
 

気温は意外と低く、2.5度
 
 左へ分岐している林道はふたつある。最初に出会った分岐はGPSの緯度と経度で位置を確認する。次の分岐で左に折れた。
 地図では途中で消えていたのに実際は宮川が見下ろせる尾根まで続いていた。この尾根からソンボ山に登る人がいるようで緑色のテープが結んであった。
 林道の終点から頂上まで距離で1.5Km、標高差100mである。雪道なら楽勝だが藪こぎだとちょっと辛い。今年はこのコースはもう遅いようだ。


雨と風を避けて杉の木の下で昼食
 
 
春を告げるフキノトウ

 時間はすでに13時15分、雨風が強くなる。
 暖かいものが欲しい。少し降って谷筋の杉の木の下で雨風を避けて昼食をとる。
 ソンボ谷から北斜面をたどっても頂上近くは藪こぎかもしれない。今年はソンボ山の季節は終わったのか?
 来週に賭けてみよう。
 登山道のない雪山は何故面白いのだろう。 自由に歩けるから? コースが決められていないから? 地図を読み、自分だけのルートを描けるから?
 風雪に立ち向かうというヒロイックな一面もある。こんな事を言うと誰も誘ってくれなくなるかもしれないが、雪山は単独が一番面白い。


ソンボ山は砂山なのか?
 

洞谷の対岸にも林道が見える
 
 帰路、ふきのとうを摘む。ちょっと塔の立ったものの方が歯ごたえがあり美味しい。筍もウドもコゴミも出がけのものが珍重されるが本当に美味しいのはちゃんと大きくなったものの方だ。歯触りも香りも断然いい。
 15時25分、土の集落に戻る。釣り人はもういなかった。雨脚が一気に強くなる。


街で見かけた変な物 国道360号線の標識
 

蟹寺にある国道360号線の越路トンネル
 
 地球温暖化でこれから先、ますます雪のない冬が多くなるのだろうか? 雪のない冬は寂しい。
 私が生まれ育った神岡の山の中の集落「大津山」は12月から4月まで雪の中の生活を強いられた。
 往時には300軒、1000人を超す人達が住んでいた雲上の集落。三井金属の社宅だけで出来ていた集落は、昭和52年の夏、忽然と集落を閉じた。
 雪の中の生活を嫌った住民の意向と会社の方針が歩み寄った末の結論だった。一瞬にして消えた1000人の集落。今でも怨念が渦巻いているに違いない。

 後年、誰もいない学校に行ってみた事がある。チョークで「今週の目標...廊下を走らない」等と書かれた黒板がそのままになっていた。
 消す者もいなかったのか、消す時間もなかったのか、生活感を残したままいなくなった生徒と先生。寂しさと共に逃げ出したくなるほど怖かったのを覚えている。
 生活をする者は雪が嫌いだが遊ぶ者は雪が好きだ。だから雪のない冬は寂しい。