錫杖岳 |
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所在地 | 岐阜県高山市 | |
登山口 | アプローチ | 新穂高温泉への途中にある槍温泉から |
登山口標高 | 965m | |
標 高 | 2168m | |
標高差 | 単純m 累計+m | |
沿面距離 | 往復Km | |
登山日 | 2007年10月21日 | |
天 候 | 曇り後晴れ | |
同行者 | 山岸、中嶋、岸 |
錫杖岳は昨年、裏から登った。錫杖沢を左から詰めて裏に回り、南峰に立ち、北峰(本峰)と途中のピナクルに立った。 帰りは途中から草付きをトラバースして右の錫杖沢(下から見たら)を降った。こちらの方が簡単だった。 そのとき錫杖岳の前衛フェースを登っているクライマー達が眩しく見えた。登って見たいと思った。その時は1年後に挑戦することになるとは思ってもいなかった。 |
今年は奥穂南陵、北穂東陵、前穂北尾根をやり、白萩川から大窓を詰めての北方稜線もやった。なんとなく錫杖岳もいけるような気がした。(実はレベルが完全に違っていた) 1人では(フリーでは)絶対無理。経験者の中嶋を誘う。これに山岸が参加してくる。渋る岸も無理矢理連れ出す。彼の登攀能力は必ず必要になるはずだ。 |
朝5時半に(槍温泉の橋を渡った)中尾温泉入口の駐車場で待ち合わせる。ここでパーティーと装備の打ち合わせをした。 中嶋はあっさりとパーティーを(岸−中嶋)と(山岸−池原)と決める。クライミング・ジムに通っている2人が組んだらなにもやっていない残りの2人は...と思ったが言葉に出来なかった。やるしかない。 |
ザイルは岸−中嶋が11mmのシングル、山岸−池原が8.6mmのダブル。一通りのギア類の他にハーケンも数枚持った。 30リットルのリュックにザイルと登攀用具を入れると雨具や食料(水も含めて)が入らない。45リットルのリュックにする。アタックザックが欲しい。 |
6時、駐車場を出発する。錫杖沢出合まで濡れた登山道を歩く。きれいだった紅葉に白いものが混じってきた。雪が降ったらしい。 嫌なムードになってきたが今さら引き返す訳にもいかずとりあえず取り付きまで行くことにする。 錫杖沢出合で錫杖岳の前衛フェースが見えた。日に当たってきれいだ。雪はついていないようだ。 7時10分、錫杖沢出合から左岸の踏み跡をたどる。いったん錫杖沢に出て30m程登り、また左岸の踏み跡をたどる。 |
岩壁の下に出てから右に回り込み、20mほどで1P(V)目の取り付きとなる。時間は8時。取り付きには2名パーティーと4名パーティーがいた。 4名のパーティーも2人ずつ組んでいく。この中の女性が登攀中に突然子供のような声で「お父さ〜ん」とコールしているのを聞いたとき...思わず倒れそうになった。 |
8時50分、中嶋がリードで1P(1ピッチ)目を行く。チムニーから行かずに左側から入って行く。こちらはチムニーから入る。 このチムニーはリュックが邪魔だった。その後は難しいところもなく40mほどをプロテクションなしで登り切る。 中嶋チームは2ピッチ目も中嶋が行く。岸はゲレンデではトップクラスなのにマルチのホンチャンは初めてだったようだ。今回の参加を渋っていた理由はこれらしい。 |
こちらはつるべで2Pを山岸が行く。ここは狭いガリー状のところで難しくはない。難しくはないのであまり記憶がない。 |
3P目の中嶋チームはここで岸がリードしたらしい。 ここはスラブを右に上がりながらいく。ここもホールドがない。右側のややこちらを向いた面に思い切り足を延ばす。止まった。が、怖かった。 右上にボルトが打ってあるのだがまったく届かない。腕がしびれて力が入らなくなってくる。いったん足を戻してザイルに体重を預け、腕を休める。 再度足を広げて体を支え、かろうじてのステミング状態の足を少しずつ上げていく。ボルトにヌンチャクをかけてA0(エーゼロ)で体を引き上げた。その先に難しいところはなかった。 |
5P目はセカンドで行く中嶋が「手がかりがない」などと言いながら、なかなか進んで行かない。ここはXとかX+と書いてあった所らしい。 前2人のコースを頭に描きながらリードで行く。まず右のチムニー状の所から取り付き、途中から左側スラブに出る。 上部はしっかりしたホールドがなく止まっているだけでも精一杯だ。核心部らしくボルトは沢山打ってある。 |
プロテクションをこまめに取ろうとしてギアラックを見ると何故かヌンチャクが3個しかなかった。3個目をかけてから少し下がり2個目を回収する。 カチでもいいから手がかりが欲しい。足を少しずつ上げて行き、ようやく手がかりをつかんだ。スリングとカラビナでヌンチャクを作ってプロテクションを取る。 カラビナもなくなり安全環付きカラビナをプロテクション用に使おうとして落としてしまった。高かったのに〜 最後はルベルソやエイト環を吊していたカラビナも使ってスリング一本とカラビナ1個でヌンチャク代わりにした。 右上がりのバンドに出て一安心。そのバンドを右側に回り込んで、ホールドの多い壁を5mほど直登する。 広いテラスに中嶋、岸が待っていた。山岸が上がってきたところで4人で休憩を入れる。 |
6Pは山岸がリードで行く。ここは初めからホールドがない。岸の身長と長いリーチでかけたヌンチャクを残していってもらう。 岩から1mほど離れたシラビソの木立を利用して最初のワンステップを取り、ヌンチャクでA0を使う。 チムニーの中に立っている岩塔は上30cmにクラックが入っていて浮いている。つかんだくらいでは落ちそうもないが浮き石である。 そこからしばらくが核心部で山岸は狭いチムニーにリュックが邪魔をして苦戦していた。ビレイも延ばしたり引いたりで忙しい。首が痛くなった。 |
このチムニーは底が抜けているのも怖い。そして傾いているのでステミングも効かせにくい、やっかいなところだ。 登ってみた感じ、結局はこの後ろの壁を利用するしかなかった。腕と足を突っ張りながら徐々に体を上げ、最後はしっかりしたホールドをつかんだ。 7Pのスラブはフレーク状のホールドが沢山あり、見た目ほど難しくない。だがこのホールドは板のように浮いていて垂直への力には強そうだが横に引っ張るとはがれそうだ。 カパっと剥がれたら「ガバ」じゃなく「カパ」だ。と1人でツッコミを入れながら体を岩から離さないようにして登る。体を岩から離すと横方向に力がかかり本当にカパになりかねない。 |
いったんテラスに出たあと最初のホールドが遠い。クラックに足を入れても届かない。その上の小さなコブに足をかけて40cm先のホールドに飛びついた。 と思ったら足が滑って1.5mほどのフォール。その瞬間、テラスにあった木にプロテクションを取っていたので大きく落ちることはないと思った。実際、ロープに頼らずテラスの上で止まった。 テラスが濡れ気味の土だったのとクラックの中も土だったので足の裏に土がついていたようだ。 |
今度は2歩目を狭いクラックに横向けに足を突っ込んで伸び上がりホールドをつかむ。足が痛いのは我慢する。落ちるよりはいい。 その後10mは簡単でプロテクションは取らず登り切る。岸が早く来いと叫んでいる。景色が素晴らしいらしい。山岸を急がせてテラスに出る。 ザイルを解いで5mほど上がると広い草原となっていた。振り返ると穂高連峰が雪をまとい、一大パノラマとなっている。 登ったものだけに与えられるご褒美とはいえ、登り切った達成感と相まって、しばらくはクライマーズ・ハイの状態だった。 皆も最高の笑顔をしている。乾杯したいところだが垂直の懸垂下降が待っている。 |
1P目の下降は6Pの取り付きまで。ここから未知の世界に入る。登ってきたルートは曲がっていて短いので直接北沢側へ降りる。 2P目はすぐに下降者が見えなくなる。声も遠く、ザイルのテンションで下降点に着いたのを確認する。ここをラストで降りる。疲れていてロープを握っている腕が限界に近い。 「スピードを落として」と言われてストンと降り立ったところは、1人がやっと立てるほどのスペースしかないテラスだった。上手に降りたものだ。 |
40cm×2mほどしかないテラスは4人が立っているのが精一杯だ。すぐに自己確保する。ここからは支点に一番近い山岸が最初に降りる。 上も下もすごい高度感だ。ここも下の下降点が見えない。テンションがかかったままで時間だけが過ぎていく。声が聞こえるが何を言っているのか分からない。 下降点が見つからないのか?行き過ぎたのか?5分ほどだったろうかテンションがとけた、長く感じた時間だった。 後で聞いてみると「フレンチ結びがロックしてしまい降りられなくなった。左側に足がかかる程度のバンドがあったので移動してはずした。焦りまくった。」だった。 |
下まで腕がもつかどうか自信がなかったのでフレンチ結びでセルフロッキングを取る。(皆も取っているし)実はこれで助かったのだった。 下降を始める。途中からブレーキをかけている右手の力が抜けていく。止まらない。セルフロッキングの手を放しても止まらない。スリングの経が大きすぎるのか?右手に力を集中する。と、やっと止まった。セルフロックも効いた。冗談じゃなくマジ怖い。 少し腕を休めて下降再開。それにしても長い。そしてほぼ垂直だ。下降点に降りてみると残っているザイルは数メートルしかなかった。45m以上の懸垂下降だった。 |
このテラスは少しずれているので降りるときに右方向に降りた方がいい。最後の20mは空中下降に近いので方向を変えにくい。 4P目は下が見えるので比較的気が楽だ。これで終わりだという安堵感もある。だが事故はこういうときに起こりやすい。気を引き締めなおす。 |
15時25分、全員無事に北沢に降り立つ。気分は最高にハイだった。普通の登山では味わえないものだ。 ザイルをたたみ涸れた北沢を降る。クライミングシューズは降りに弱い。こんなもので1時間も歩いたら爪をやってしまう。 幸い、取り着き点は近く、10分ほどで着いた。靴を履き替え、登攀用具をリュックに詰め、踏み跡に入る。16時20分、錫杖沢出合に戻り、17時10分、槍温泉に戻った。 |
夕闇が迫る中、なんとかヘッデンを使うことなく戻ることが出来た。リュックを下ろし、登山靴の紐を解く。中嶋差し入れのミカンが美味しい。 岸は冬のボーナスでガチャを揃えると言っている。このメンバーでまた岩を登る日は遠くなさそうだ。 この(1回目の)経験は重要だ。次回はかなりパワーアップしているだろう。 |
岩は敷居が高い。登攀用具を揃えるだけでも大変だ。本だけの知識では心許ない。1人で訓練できることもかぎられている。 よき経験者と仲間が必用だ。きっかけを与えてくれたハマ秀。用具の相談に乗ってくれる好日山荘の富田さん、マンゾクの久保さん、そしていっしょに行ってくれる山の仲間達。ありがとう。 |