槍ヶ岳北鎌尾根



槍ヶ岳独標よりのぞむ穂先 右奥に見えるのは笠ヶ岳(2008年9月15日撮影)

所在地岐阜県高山市、長野県安曇市
上高地〜
新穂高温泉
上高地1505m
水俣乗越2480m
北鎌沢出合1830m
槍 ヶ 岳3180m
新穂高温泉1100m
14日標高差累積(+)1000m 累積(−) 650m 沿面距離19Km
15日標高差累積(+)1370m 累積(−)2150m 沿面距離17Km
登山日2008年9月14日〜15日
天 候14日晴れ 15日晴れ
同行者岩城、赤坂、岸、中嶋、BOW、黒須
参考コースタイム
 山と高原地図
14日 上高地(1時間)明神館(1時間)徳沢園(1時間10分)横尾山荘(1時間40分)槍沢ロッジ(1時間)水俣乗越分岐(1時間)水俣乗越(不明)北鎌沢出合

15日 北鎌沢出合(不明)北鎌沢右俣コル(不明)独標(不明)穂先(30分)肩(1時間20分)千丈分岐(1時間30分)槍平(2時間)白出沢出合(1時間30分)新穂高温泉
コースタイム 14日 上高地(50分)明神館<休憩5分>(45分)徳沢園<休憩30分>(50分)横尾山荘<休憩40分>(55分)二ノ俣<休憩20分>(25分)槍沢ロッジ<休憩40分>(50分)水俣乗越分岐<休憩15分>(1時間)水俣乗越<休憩10分>(1時間45分)北鎌沢出合

15日 北鎌沢出合(1時間55分)北鎌沢右俣コル<休憩20分>(55分)P8<休憩5分>(10分)P9【天狗の腰掛け】(45分)独標基部<偵察15分>(27分)独標<休憩5分>(13分)P11<休憩8分>(7分)P12(10分)P13(10分)P14<ヘリ救助待機30分>(1時間5分)北鎌平<休憩10分>(1時間)穂先<休憩10分>(10分)肩<休憩30分>(1時間20分)千丈分岐(1時間30分)槍平(1時間25分)白出沢出合(1時間15分)新穂高温泉



 
 


9月14日



 
 

上高地バスターミナル
 

梓川を左に見ながら行く
 
 平湯で前泊して、あかんだな駐車場5時20分の始発バスにゆっくり乗る。の、予定が、あやうく乗り遅れそうになる。何故か、いつもこうなる。
 6時、上高地に到着。朝早いのはヤマヤだけだ。3連休の中日だからかバスターミナルにいつもの活気がない。


ゆったりと流れる朝の梓川
 

徳沢園のきれいなキャンプ場
 
 6時20分、バスターミナルを出発する。梓川沿いを歩き、河童橋を通過。朝食前の泊まり客がゆったり散策している。いきなりモチベーションが下がりそうになる。
 8時ちょうど、徳沢園。いつ見てもここのキャンプ場は芝生がきれいで明るい雰囲気がある。いつか、ゆったりとテントを張ってみたい。


横尾山荘
 

横尾山荘前でとやんばしさんと遭遇
 
 横尾山荘で小休止を入れる。ごく自然に目の前を知った顔の人が歩いている。とやんばしさんだ。と、何気に思う。
 いや、ここは富山から離れた上高地の横尾だ、と気付いて声をかけた。仲間と1泊で蝶ヶ岳に行ってきたらしい。「山は広いが登山道は狭い」


横尾のキャンプ場 バックは屏風岩と遠くに横尾尾根
 

底まできれいに見える梓川の清流
 
 一ノ俣谷出合から一ノ俣谷を詰めれば常念乗越だ。東鎌尾根の喜作新道が出来るまで大天井岳から槍ヶ岳へ至る表銀座だったところだ。
 山小屋と山小屋が営利目的で競い合い、名猟師であった牧の喜作に新しく登山道を開かせた話は「北アルプス100年史」に詳しく書かれていて興味深い。


初めて訪れる新しくなった槍沢ロッジ
 

槍沢ロッジフロント兼売店
 
 30年前に槍沢を降ったことがあった。立山からの縦走で足はまめだらけ。痛さと辛さで記憶がほとんどない。
 建て替えられたようできれいな建物となっている。ビールで水分を補給し、ラーメンでエネルギーを補給をする。


槍沢ロッジレストラン
 

ラーメン(1000円)
 

赤沢岩小屋の槍沢キャンプ場と東釜尾根
 
 水俣乗越分岐までは比較的なだらかな登山道だった。水俣乗越越えが本日の核心部。13時30分、ゆっくり歩き出す。
 細かくジグを切った道が延々と続く。地図には悪天候時の避難路と書いてあるが立派な登山道だ。途中、休憩を入れて14時30分、乗越に出る。


水俣乗越分岐
 

水俣乗越
 
 水俣乗越の正面に針ノ木岳、その下に緑色をした高瀬ダムが見える。左は裏銀座の野口五郎岳とその稜線。手前に北鎌尾根がシルエットとなっている。
 野口五郎岳の手前にネコの耳のように見えるのは北鎌尾根のP6とP7だろうか?


水俣乗越からのぞむ裏銀座(左に野口五郎岳) 遠くに針ノ木岳と高瀬ダム
 
 水俣乗越からの降りは、はっきりした踏み跡がある。ザレた急な降りなので滑らないように慎重に降る。源流右岸の灌木帯を過ぎると岩だらけの涸れ沢となる。


水俣乗越から天上沢を降る
 

踏み跡はあるが急降
 
 思ったよりこの降りが長く、嫌になる。徐々に傾斜がなだらかになってきたところで左から水流のある間ノ沢が合流してくる。
 この水流もしばらく行くと伏流水として消えていく。念のたね今晩から明日の朝までの水を汲んでいくことにする。2+1+0.5で合計3.5リットル。重い...


天上沢源流の涸れ沢を行く 遠くに見えるのは支流の間の沢
 

水俣乗越を振り返る
 

北鎌尾根 左が槍ヶ岳で右が独標
 
 北鎌沢出合には岸と赤坂が待っていた。彼らは新穂高温泉から槍経由で水俣から降りてきている。岸は分かるが、赤坂もかなり健脚だ。
 まずは各自ツェルトを張って寝場所を確保する。ツェルト自体は小さくてもマットとシュラフが大きく、リュックは小さくならない。


北鎌沢出合で岸、赤坂と合流 栃木の黒須も加わる(BOW撮影)
 
 いくつかあったたき火の跡のひとつを借りて火をおこした。魚肉ソーセージも焼いて食べれば美味。ヘッデンだけの明かりと違って心まで温かくなる。
 そういえば夜中にたき火をするなんて中学生の時のスクールキャンプ以来だ...


西の空に黒いシルエットとなって浮かび上がる槍ヶ岳
 

身も心も暖まるキャンプファイヤー
 


9月15日



 
 
 朝、4時起床。寒くてよく眠られなかった。ツェルトの上に張ったターフもツェルトも両方とも結露でベタベタになっていた。
 ツェルトは岩の上に広げてバンダナで水気を拭く。ツェルトは内側でストーブを焚いて乾かす。今日のコースは少しでも軽量化を図りたい。


北鎌沢右俣を行く
 

谷は徐々に狭まりコルが見えてくる
 
 5時出発の予定が少し遅れて5時20分となる。北鎌沢を詰める。150m程登ると水流がある。さらに100mほど登ったところが右俣と左俣の合流点だ。水流は左俣からのものだ。槍ヶ岳山荘までの分として1リットル(500ml×2)を持つ。
 左俣は独標に向かっていて危険。真っ直ぐに伸びている右俣を選ぶ。右俣も所々で水流があるが、それをあてにするのはリスクが大きすぎる。


右俣コルからしばらくは登山道のよう
 

行く手に立ちはだかる槍ヶ岳独標
 
 所々大きな岩があり、行く手をはばむが、これから先のトレーニングと思い、巻かずに乗り越えていく。
 次の分岐も右を選ぶ。ネットでは全て右と書いてあるが信じてはいけない。黒須は前回、右に行き過ぎて懸垂で戻り、1時間ほどロスしたと言っている。大きな沢筋を選んだほうが間違いがない。
 7時20分、北鎌沢右俣のコルに出る。ネットではほとんどの人がここを北鎌のコルと呼んでいる。固有名詞なのか?


ここは浮き石が多く、間隔を開けながら行く
 
 残っていたロング缶のビールを岩城が出した。嫌いじゃないので手が出る。スルメも出てくる。このシチュエーションでは不謹慎でしょうか?
 北鎌沢右俣のコルから登山道のような踏み跡をたどる。急登も岩やハイマツを手がかりに危険なところはない。後方に大天井が見えてきて歓声があがった。
 北鎌沢右俣コルからほぼ1時間のピークがP8だ。(と、思う)小さなピークがいくつもあり、自信を持って確定出来ない。


近づく独標
 
 8時50分、P9(天狗の腰掛け)。独標手前の登りは浮き石が多く、1人ずつ登る。9時15分、独標の下に立つ。
 遠くからは正面壁の左にチムニーの弱点があったように見えたが、上部に残置スリングがあるだけで全員が登れるようなところではなかった。


独標正面の岩 弱点を探すが見つからなかった
 
 正面壁右側のチムニーも登ってみたが無理。前回と同じように右から巻くことにする。最初のバンド部分が前回より狭く(10cm)なっていた。その代わり横に張られたフィックスロープがあった。
 


独標を右から巻く 以前よりバンドが狭くなっている
 
 その後は登山道のようなバンド部分、踏み跡のあるザレ場へと続く。岸は途中から尾根筋を偵察に行き、降りられなくなってそのまま独標へ向かった。


独標右のザレ場
 
 独標の巻き道で、ネットで必ず出てくるのが天井の低いバンド部分である。幅40cmで高さは1mぐらいしかない。
 大きなリュックを担いでいたりするとかなり歩きにくい。身を低くして、ほとんど腹ばい状態で通った。


幅の狭いバンドは上下も狭く、慎重にはらばいで通過
 

独標の巻き道は高度感たっぷり ちょっとしたミスも許されない
 
 巻き道の途中から独標にむかって直登する組3人と巻き道組3人に別れる。直登はところどころに踏み跡もあり、意外に簡単に登れる。巻き道より安全かもしれない。
 踏み跡があるといっても浮き石だらけである。岩を足裏で掴むように静かに、垂直に体重をかけ、持ち上げるときはキックしないように気をつける。


落石を起こさないよう慎重に登る(岩城撮影)
 
 突然の「ラクーッ!」の声に上を見ると頭大の石が勢いよく転がってきて、3mほど上で飛び跳ねてまともに向かってきた。とっさに上半身を左にひねってよける。体ごとよけたらそのまま左側に落ちていきそうな場所だった。


独標(P10)の上にある2つのピーク(岩城撮影)
 
 10時12分、独標。独標には高さが同じくらいの大きな岩がふたつあった。その下に一張りぐらいは出来そうなテン場もある。
 独標は槍ヶ岳のビューポイントでもある。東鎌尾根、西鎌尾根を左右に従えて、誇らしげにそびえ立つ姿は他の角度からは得られない。


独標から槍をのぞむ
 

P12の降り
 

笠ヶ岳、弓折岳、双六岳、遠くに黒部五郎岳、三俣蓮華岳 手前は西鎌尾根
 

三俣蓮華岳、鷲羽岳、水晶岳、野口五郎岳 手前は硫黄尾根
 

大天井岳、東天井岳、常念岳 手前は東鎌尾根へと続く表銀座
 
 10時30分、P11。10時45分、P12。10時55分、P13。と、このあたりはピークが連続して現れる。
 北鎌尾根のピーク(P8〜P15)は勘で推定してだけなので間違っているかもしれない。間違いを指摘していただければありがたい。


長野県警のヘリが飛んでくる
 

千丈沢側の支尾根の下に降りていった
 
 西鎌尾根から長野県警のヘリコプターが飛んできて我々の上空を旋回しだす。目的は我々?そのうち千丈沢の方へ降りていき、再び上がってきて、我々にスピーカーで話しかけてきた。
 「...救助活動...落石...危険...行動を停止...」。プロペラの爆音でよく聞き取れないが、どうやら、救助活動に取りかかるから(落石を起こさないよう)動かないでくれと言っているらしい。頭の上で大きく丸印を作ってオーケーサインを送る。
 100mほど下に遭難者がいるらしい。30分後、つり上げられてきたのはブルーシートにくるまれた遺体だった。
 「ご協力ありがとう。健闘を祈る。」の言葉を残して去っていった。


この巻き道はこの陰にあるコルに出て尾根を直登したので使わなかった
 
 千丈沢のほうに散らばっているリュックなどの遺留品をみると、一気にテンションが下がる。しばらくは必要以上に慎重になってしまった。
 左の急なザレ場の巻き道を嫌って10mほどの岩場を直登する。ザイルを出したりで時間を使ってしまった。救助活動の協力で30分、ザイルを出して15分。


コルから細尾根を直登する
 
 右からの長い巻き道はすぐ近くまで深く切れ込んだコルに出て細尾根を直登する。この後、巻き道は使わず尾根筋をトレースした。
 北鎌平も直登したほうが早い。前回は巻き道を通ったので、嫌になるほど標高を落とし、北鎌平も通らず大きく巻いてしまった。


北鎌平へ向かって直登
 

北鎌平で一息つく 槍の穂先は近い
 
 12時40分、北鎌平。中央に大きな石があり赤いペンキで「ここは北鎌平」とかいてあるのがかすかに読み取れる。「ここは」と、ことわっているのが、なんか可笑しい。
 頂上は近い。あとは頂上直下のチムニーを見つけるだけだ。


栃木県から単独で来た黒須
 
 黒須が持ち込んだザイルは25m。中途半端だと言うと、親の目の前で50mザイルを半分に切ったからよ。って、納得。
 岩をやめるよう約束させられたのだろう。でも、やめるつもりがなかったのなら、20mと30mにして切ればよかったのに...


穂先は近い 気を抜かず頑張れ
 
 ここから大きな岩が折り重なった斜度のない尾根を行く。岩壁に突き当たり、左へ向かう所にプレートがある。
 ドイツ語で「Berg Heil」、日本語で「穂先は近い 気を抜かず頑張れ」と書いてある。余計なお世話という気がしないでもない。


穂先手前の広場 バックは前穂、北穂、奥穂、ジャンダルム
 
 ガレた広いバンドで一息つく。ここからチムニーがふたつ続く。下のチムニーは右から巻けば簡単に通過できる。
 岸はせっかくだからとここを通る。上部がハングした狭いバンドを残置スリングでA0しながらも絶妙のバランスで抜けた。


最初のチムニーはアンダーホールドを見つけてクリア
 
 岸の真似は出来ないが、最悪、クライムダウン出来そうなので挑戦してみる。確かに覆いかぶさるようにハングした狭いバンドには適当なホールドがない。
 手探りで探しているうちにバンドの下にアンダーのホールドを見つける。チョックストーンにめいっぱい足を延ばし、ここをクリア。


2番目のチムニーには残置ロープがあった
 
 そこからさらに左に回り込んだところに頂上直下のチムニーがある。そこには真っ赤な残置ロープが...瞬間、美しくないと思った。
 こんな所を登れない人は北鎌尾根に来ないほうがいい。もしくは登れる人といっしょに来て、その都度ザイルを出してもらうべきだと思う。(言い過ぎか?)


この残置ロープは誰も使わなかった(岩城撮影)
 

頂上直下(岩城撮影)
 

岩城、BOW、中嶋、栃木県からの黒須、岸
広島県から参加の赤坂夫妻、ike

 13時50分、穂先に出る。ギャラリーからの温かい拍手は競技を終えた選手に送られる拍手に似ていると思った。ベストを尽くした人に対する賞賛の拍手に...
 14時45分、槍沢ロッジに泊まる予定の黒須に見送られて槍ヶ岳山荘を出発。皆の心はひとつ。「ひらゆの森」で温泉につかりた〜い!


16時45分槍平出発(岩城撮影)
 


19時25分新穂高温泉バスターミナル(岩城撮影)