錫杖岳



錫杖岳前衛峰(2013年3月9日撮影)

所在地岐阜県飛騨市
登山口 アプローチ新穂高温泉への途中にある槍温泉から
登山口標高965m
標   高2168m
標高差単純1203m
沿面距離往復8.3Km
登山日2013年3月9〜10日
天 候9日晴れ 10日吹雪
同行者中嶋
コースタイム 9日
槍温泉口(2時間10分)錫杖沢出合

10日
錫杖沢出合(1時間50分)コル<休憩10分>(50分)撤退地点(15分)コル(50分)錫杖沢出合<テント撤収30分>(1時間15分)槍温泉口
5時間+休憩10+テント撤収30分=5時間40分



錫杖岳を南から北へ縦走する計画だった
 
中嶋から錫杖岳縦走の誘いが入っていた。
錫杖沢の雪崩も心配だし、ザイルなしで、
この季節の、あの稜線を行けるのだろうか?
誘ったメンバーは全員、都合が付かなかった。
アタック日の天気予報も最悪だった。

3月9日



初日は錫杖沢出合でテントを張る
 
 今日は錫杖沢出合あたりでテン泊の予定で、ゆっくり出発する。
 出来るだけ標高を上げておきたいのだが、帰りは錫杖岳の北側からクリヤ谷を降りてくる。
 錫杖沢出合より上にテントを張ると、撤収するためだけに登らなければ、ならなくなる。


槍温泉への道路が登山口
 

ここから登山道に入る
 
 夏道の記憶はいいかげんなものだ。登山道はクリヤ谷に沿っていると思い込んでいたのは間違いだった。
 トレースがなかったら沢に迷い込んだりして、もっと時間がかかっていただろう。


トレースがあったので助かった
 

膝のリハビリ中の中嶋
 
 2時頃から、ひなたぼっこをしながら飲み始める。目の前には錫杖岳前衛峰がひろがる。
 贅沢な時間だ。たまにはこんな山行きもいい。


錫杖沢出合近くの雪崩がこないところを探してテントを張る
 
 気持ちよくなって明るいうちに寝てしまった。目が覚めてみると外は暗い。
 夕食もまだだし、水もつくっていない。食欲はないが、野菜スープとカップ麺をつくった。


カップラーメンと野菜スープだけの夕食
 
 なかなか寝付かれない。中嶋に声をかけたが無反応。朝、きいてみたら耳栓をしていたそうだ。
 2時頃に単独の登山者がテントの横を通っていった。ヘッドライトの向きは下山。
 シャク、シャク、シャクという足音が近づいてくるときは怖かった。

3月10日



錫杖沢を詰め、錫杖岳を目指すが天候悪化と装備不足で登頂断念
 
 夕方、寝てしまったからか、なかなか寝付かれない。寝付かれないまま朝を迎えればいいのに、明け方、眠くなるのがいつものパターン。嫌なパターン。


御前6時、錫杖沢にとりつく
 

振り返ると錫杖沢の対岸に焼岳が見えた
 
 田部井淳子さんだったか? 今井通子さんだったか? エベレストアタックの前日、眠られなかったそうだ。
 そのとき、「氷点下の強風の中で岩壁に張り付いたまま一晩明かしたこともあった。 それにくらべれば、横になっていられるだけでもましだ。」と思ったら楽になったそうだ。
 これを読んでから、眠られなくても焦ることはなくなった。


錫杖沢の斜度はこんなもんです
 

錫杖沢岩室での冬季のテン泊は無理
 
 うつら、うつらとしている明け方。時計を見るのがつらい。もう少しこのままでいたい。
 だが、今日は午後から雨の予報。出来るだけ早く出発したほうがいい。
 時計を捜して、ヘッド・ランプをつけてみると4時50分。


錫杖沢のデブリがすごい 行動出来るのは午前中の早い時間だけか?
 
 朝食はコーヒーとパン1個。ポットに詰めた甘い紅茶とパン2個が今日の行動食のすべて。
 6時、出発。空はヘッド・ランプなしで歩けるくらいに明るくなっていた。


錫杖岳前衛峰のシルエット
 

極力、デブリの部分を避けていく
 
 ゆっくりと錫杖沢を詰めていく。岩室の上で沢が二つに分かれてるのだが、今回は全て雪の下。
 積雪期は何処を歩いても同じ。だが雪崩が怖いので沢の端を行く。


この錫杖岳前衛峰は2回の登攀経験がある
 
 錫杖岳前衛峰。2回登攀している「左方カンテ」のルートを目で探しながら歩く。
 登行ルートと、懸垂下降のルートがほぼ確定出来た。「よく登れたものだ」と自分で自分に感心する


落差20mほどのアイスフォール
 

クレパス
 
 沢の上部にクレパスはつきもの。錫杖沢も同様にクレパスが走っていた。
 降るときは危ないが、登るときは回避できる。それでも中嶋は落ちかけた。 「クレパスあるよ」と教えたのに...


アイスフォールの下部は折れて流され、沢の途中にあった
 
 落差20mほどの滝の氷柱がある。本峰と前衛峰の間に水流があるようだ。
 前衛峰の上でテントを張るときに、水があるかないかは大事な問題だ。


烏帽子岩
 
 沢を詰めていくと本峰と前衛峰の間にそびえる烏帽子岩が見えてくる。
 格好のいい山(岩?)だ。多分、誰かがすでに登っていると思う。登行差は約100m。


もっと大きなクレパス
 

コルまであと50m ばんばれ
 

コルの複雑な雪のうねり
 
 コルに出たとたんに強い北西の風を浴びる。雪庇の裏に隠れて小休止をいれる。
 ここから頂上までの夏通(踏み跡)は錫杖岳の岩場と地面の境を通っている。
 今回は2〜3mの積雪があり、夏道の記憶は参考にならない。


コルから錫杖岳への稜線を行く 遠くに見えるのは烏帽子岩
 
 コルから左側(笠谷側)に切れ落ちた斜面を行く。
 核心部でスノー・シューズをアイゼンに、ストックをピッケルに替えた。
 MSRのライトニングはアイゼン代わりにもなるので、いつも替えるタイミングが遅れる。

 小さなコーナーを回ったところで、広く(直径50m)、底が抜けたようなところに出た。
 夏道の途中にザレ場が一カ所あった。ここがそれかもしれない。
 もしくは夏道はもっと下にあり、登りすぎているのかもしれない。どちらにしても行くのは危険。


ここで装備不足に気づく 天候も強風の雪に変わる 撤退を決める
 
 下には何カ所も岩が出ているので滑り落ちるわけにはいかない。
 登り切れたとしても頂上から先は未踏のコース。行き詰まって引き返したときには、さらに危険な場所となる。

 ザイルを持ち込むべきだった、と悔やむが手遅れ。
 天候も味方せず、雨の混じった雪が降り出している。風が強いと行動も注意散漫となる。
 ここまで来て悔しいが撤退を決めた。


錫杖沢は斜度45度くらいか?
 
 9時55分、テン場(錫杖沢出合)に戻る。雨の中テント撤収。重くなったリュックを担ぎクリヤ谷を降った。
 11時40分、駐車場に戻る。上空はものすごい勢いで雪が吹きすさんでいた。
 突っ込んで行かなくてよかった。悔しさは消えていた。


栃尾の道の駅「いちすけ」の岩魚姿焼定食(1200円)
 
 お腹はすいていたが、濡れた体が冷たい。まずは温泉に入って体を温める。
中尾温泉「山本館」の男湯はぬるくて暖まらなかった。かけ湯もシャワーも出なかった。最悪。

 気を取り直して、栃尾の道の駅で遅い昼食をとる。「いちすけ」の岩魚姿焼定食。